山火事による大気汚染で精液所見低下 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、山火事による大気汚染で精液所見が低下することを示しています。

 

Fertil Steril 2024; 121: 881(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.02.014

要約:オレゴン州ポートランドでは、2020年9月の山火事の煙により大気汚染が生じました。2020年7〜12月に少なくとも2回(山火事前と山火事後)の精液検査(人工授精用)を行った男性30名(平均年齢37.9歳、白人が83%、男性不妊が73%)を対象に、年齢、人種、民族、BMI、喫煙に関するデータを収集し、山火事による精液所見への影響を後方視的に検討しました。2回の精液検査のインターバルは平均50.2日でした。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

             山火事前    山火事後    P値

精子濃度         9125万/mL > 6650万/mL  0.01 

精子運動率         58%      56%    NS

総運動精子数       13160万  >  9570万   0.02

調整後総運動精子数     2072万  >  1545万   0.01

調整後総運動精子数<500万  13%  <   27%    0.04

 

解説:大気汚染と精液所見低下の関連は知られていますが、山火事による急性大気汚染が精液所見に及ぼす影響についてはこれまで報告されていませんでした。本論文は、山火事による大気汚染で精液所見が有意に低下することを示しています。本研究は、症例数が少ないため限界がありますが、将来の山火事における指針となる可能性があります。

 

大気汚染については、下記の記事を参照してください。

2024.5.27「山火事による大気汚染で胚盤胞発生低下!?

2023.9.19「大気汚染と男性不妊の関係

2021.8.25「大気汚染による子宮筋腫リスク

2021.5.25「停留精巣発生率は工業地域に多い

2021.3.4「☆ダイオキシン暴露による子孫への影響

2020.3.7「☆ARTによる赤ちゃんの男女比:大気汚染の影響

2019.11.5「大気汚染と妊娠:米国

2019.10.4「☆妊活中、妊娠中に気をつけること:化学物質への暴露

2019.3.4「大気汚染と流産リスク:ケース・クロスオーバー研究

2018.6.21「大気汚染と体外受精の成績

2018.3.29「初潮の頃の大気汚染で生理不順?

2018.2.11「☆大気汚染と流産の関係

2018.1.11「大気汚染による妊孕性への影響は?

2016.4.6「大気汚染と不妊症

2014.3.5「☆PM2.5よりタバコが怖い

2013.6.10「☆PM2.5で卵子が少なくなる?