停留精巣発生率は工業地域に多い | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、停留精巣発生率は工業地域に多いことを示しています。

 

Hum Reprod 2021; 36: 1383(フランス)doi: 10.1093/humrep/deaa378

Hum Reprod 2021; 36: 1171(英国)コメント doi: 10.1093/humrep/deab051

要約:フランスの疾病登録コードから、2002〜2014年に停留精巣の手術を実施した7才未満のお子さん89,382名を対象に、郵便番号を元にした住居の分布マップを作成し、地域差を検討しました。停留精巣罹患率は、2002年に2.2人/1000人でしたが、2014年には2.8人/1000人へ増加しました。停留精巣の分布マップから、24のクラスターが見出されました。もっとも大きなクラスターは、フランス北部のかつて石炭の鉱山があった場所で、現在は工業地域になっています。クラスター分析によると、社会経済学的な低下環境汚染物質が関与しているものと推察されます。なお、工業地帯は、大気汚染物質環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)の産生が多い場所です。

 

解説:男性の場合、造精機能障害と他臓器の機能障害とのリンクがあるとして、TDS(精巣形成不全症候群=Testicular Dysgenesis Syndrome)が提唱されています。TDSは、精子数減少、精巣癌、尿道下裂、停留精巣の4つの男性の生殖器異常を指し指し、北欧諸国で提唱されました。停留精巣は胎児期の環境ホルモンへの暴露が一因であるとされています。本論文はこのような背景のもとに行われた研究であり、停留精巣の発生率には地域差があり、工業地帯で罹患率が高くなることを示しています。

 

コメントでは、環境汚染が犯人であるのなら、住居を変えることでTDSの予防が可能であるとし、一般への啓蒙活動が重要であるとしています。

 

この問題は、停留精巣だけではなく、精子の状態や男性の癌にも関与する重要なポイントです。妊娠中は工業地域を避けるのが望ましいと言えるでしょう。

 

TDS仮説については、下記の記事を参照してください。

2021.3.17「☆親子の精巣機能マーカーの類似性

2020.12.14「男性不妊と悪性腫瘍の関連:メタアナリシス

2020.9.25「停留精巣の既往で精巣機能低下

2020.2.28「男児の出生時体重低下は将来の男性不妊と関連!?

201912.21「男性不妊と死亡リスク

2018.12.9「男性不妊と併存疾患

2017.1.17「精液所見低下とその親族のお子さんの死亡率の関係

2016.11.14「Q&A1274 無精子症と癌

2016.10.14「顕微授精で生まれた男性の精液所見は良くない?

2013.10.30「無精子症の男性は癌になりやすい?

2013.7.31「☆精巣形成不全症候群(TDS)