本論文は、男児の出生時体重低下は将来の男性不妊と関連することをデンマークの国家規模の統計により示しています。
Hum Reprod 2020; 35: 195(デンマーク)doi: 10.1093/humrep/dez232
要約:1984〜1987年にデンマークの2つの地域(オールボー、オーデンセ)で出産した方(男性5594名、女性5342名)を対象に、18歳の誕生日から2017年末まで、デンマークの出生統計と疾病統計により調査しました。不妊症のオッズ比は下記の通り(出生時体重を全体のパーセンタイルによりSGA、AGA、LGAの3段階に分類)、SGAの男性で1.55倍不妊症リスクが有意に増加しましたが、男性のLGAおよび女性での不妊症リスクはありませんでした。また、SGAの男性で尿道下裂と停留精巣を除外してもなお、1.37倍不妊症リスクの有意な増加を認めました。
出生時体重 男性 女性
SGA(~10%) 1.55 〜
AGA(10〜90%) 0.00 0.00 (基準)
LGA(90%〜) 〜 〜
解説:不妊症は増加の一途をたどっており、現在12.5%の方が1年以上の不妊期間を有しています。出生時体重が小さい低体重(SGA)は性腺の発達も低下している可能性が示唆されています。また、SGAで生まれた男児は尿道下裂、停留精巣、精巣腫瘍のリスクが2〜3倍であることが知られていますし、高FSH、低インヒビンB、精巣容積減少が認められます。さらに、SGAで生まれた女児は初潮が早くなることが知られています。SGA児に見られるこれらの現象の存在は、将来の不妊症のリスクを想定させます。本論文はこのような背景の元に行われた研究であり、男児においてのみSGA(出生時体重下位10%)が将来の男性不妊と関連することを示しています。
なお、造精機能障害と他臓器の機能障害とのリンク(精巣形成不全症候群=Testicular Dysgenesis Syndrome, TDS)が示唆されています。TDSは、精子数減少、精巣癌、尿道下裂、停留精巣の4つの男性の生殖器異常を指します。
TDS仮説については、下記の記事を参照してください。
201912.21「男性不妊と死亡リスク」
2018.12.9「男性不妊と併存疾患」
2017.1.17「精液所見低下とその親族のお子さんの死亡率の関係」
2016.11.14「Q&A1274 無精子症と癌」
2016.10.14「顕微授精で生まれた男性の精液所見は良くない?」
2013.10.30「無精子症の男性は癌になりやすい?」
2013.7.31「☆精巣形成不全症候群(TDS)」