睡眠と妊娠 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、睡眠と妊娠に関するオピニオンです。

 

Fertil Steril 2024; 121: 576(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.12.010

要約:ヒトは人生の3分の1を眠って過ごします。睡眠は日常生活に不可欠であり、睡眠不足は健康状態に大きな影響を与えます。24時間眠らない現代社会は、慢性的な睡眠不足が蔓延する一因となっている可能性があります。米国では3人に1人が推奨最低睡眠時間の7時間を下回っており、生殖年齢の女性も同様に慢性的な睡眠不足です。REM睡眠の不足は睡眠時間だけでなく睡眠の質も低下するとされており、睡眠の質の低下はうつ病、肥満、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中などと関連しています。一方、睡眠の生殖への影響についてはほとんど研究されていません。時計遺伝子に変異を持つ動物モデルでは、睡眠障害のために排卵障害生殖能力の低下を引き起こすことが示されています。症例数が少ない研究ですが、睡眠時間が1時間増加するごとに採卵数が1.5個ずつ増加するとの報告もあります。閉塞性睡眠時無呼吸症候群陽性患者では採卵数、移植可能胚数、臨床妊娠率が有意に低いことも示されています。また、交替制勤務を日常的に行っている女性は月経不順と早期流産率が有意に高いことが知られています。これまでの研究は、症例数が少ないことや睡眠の測定法がまちまちであるなどの問題点がありますが、睡眠の改善は現実的かつ低コストであり、積極的に実施するメリットがあるかもしれません。

 

下記の記事を参照してください。

2024.3.10「☆睡眠やシフト制勤務と流産の関係」:睡眠時間と流産に関連はないが、男女の夜勤(特に男性の夜勤)で流産率が増加

2023.3.17「睡眠と妊孕性:EAGeRスタディー」:睡眠と妊孕性に有意な関連はない

2023.2.9「☆睡眠の質とARTの妊娠成績」:睡眠の質が良好(PSQI≦5)な場合に妊娠率と出産率が良い

2022.7.7「睡眠障害とART治療の妊娠成績」:ART治療では睡眠障害により採卵成績、培養成績、妊娠成績が低下

2020.8.12「☆シフト制勤務や夜更かしで精子数が減少」:シフト制勤務や夜更かしで精子数が減少する

2019.6.25「不眠と不妊:女性の睡眠障害は良くない」:妊娠を目指す女性は睡眠障害がないようにする

2019.3.23「夜勤で閉経が早まる!?」:夜勤で閉経が早まる

2018.4.12「男性は毎日8時間睡眠がお勧め」:妊娠を目指す男性は6〜9時間睡眠が良い