子宮内膜症の痛みはART治療成績とは無関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、子宮内膜症の痛みはART(体外受精、顕微授精)の治療成績とは無関係であることを示しています。

 

Hum Reprod 2024; 39: 346(フランス)doi: 10.1093/humrep/dead252

要約:2014〜2021年にART治療を受けた354名(平均年齢33.8歳、平均不妊期間3.6年)の子宮内膜症患者を対象に、累計711周期のART治療成績について観察研究を行いました。なお、子宮内膜症の診断は、画像診断(超音波、MRI診断)か手術的な組織学的診断(127名、35.9%)で行いました。なお、月経困難、性交障害、非周期性慢性骨盤痛、胃腸痛、下部尿路痛については、ビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて評価し、重度の痛みは少なくとも1つの症状についてVASが7以上であるものとしました。内訳は、表在性子宮内膜症3.1%、卵巣子宮内膜症8.2%、深部浸潤性子宮内膜症88.7%で、平均VASスコアは、月経困難6.6、性交障害3.4、胃腸痛3.1でした。重度の痛みは242名(68.4%)で認められました。患者あたりの出産率は63.8%(226/354)であり、出産率とVASスコアに有意な関連はありませんでした。出産率低下と有意な関連がみられたのは、女性年齢35歳以上AMH<1.2のみでした。

 

解説:子宮内膜症は子宮内腔以外の場所に子宮内膜組織が存在する疾患であり、生殖年齢女性の10~15%にみられます。子宮内膜症による不妊症の発症機序は不明ですが(i)骨盤腔内炎症による受精障害、(ii)卵巣予備能低下、(iii)卵管機能の変化、 (iv) 子宮内膜受容能低下、(v) 性交痛による性交回数減少などが想定されています。ART治療は子宮内膜症によるデメリットを全て打ち消す治療ですが、痛みの症状がART治療成績と関連しているかどうかは明らかにされていませんでした。このような背景の元に本論文の検討が行われ、子宮内膜症の痛みはART治療成績とは無関係であることを示しています。本論文の問題点としては、画像検査に基づく子宮内膜症診断が2/3を占めるため、診断に正確性を欠く可能性があります。