☆妊娠初期の出血と流産は無関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ホルモン補充周期移植での妊娠初期の出血と流産は無関係であることを示しています。

 

Hum Reprod 2023; 38: 2373(デンマーク)doi: 10.1093/humrep/dead218

要約:ART治療(体外受精、顕微授精)による妊娠初期の出血に関する論文の系統的レビューを行いました。12件の論文が抽出され、妊娠初期の出血は2.1〜36.2%に認められました。ランダム効果比例メタアナリシスの結果、妊娠初期出血の罹患率は18.1%(95%信頼区間10.5〜27.1)と推定されました。レビューに含まれている研究のほとんどは古いものであり、また中程度の品質でした。4件は大量出血がある場合に流産リスクが有意に増加することを示しましたが、これにはホルモン補充周期移植が含まれていませんでした。ホルモン補充周期移植後妊娠の出血に関して検討するために、2020〜2022年に一つの施設でホルモン補充周期移植により妊娠した320名の妊婦を対象に、前方視的コホート研究を実施しました。妊娠判定陽性の47%(149/320)が妊娠8週間目までに出血を経験していました。1回または数回の出血があった患者のうち、71%(106名)が妊娠12週まで妊娠を継続していました。一方、出血がなかった53%(171/320)の患者では、67%(115名)が妊娠12週まで妊娠を継続していました。両群間の妊娠継続率及び出産率に有意差を認めませんでした。

 

解説:欧州では、お子さんの2%〜6%がART治療で誕生しています。出血は妊娠初期によく見られる現象であり、自然妊娠では9〜27%で起こります。出血のある女性の多くは満期産を迎えますが、痛みを伴う大量の出血は、妊娠初期の流産リスクを増加させます。妊娠初期の出血の要因は様々であり、着床出血(正常な兆候)、異所性妊娠、絨毛膜下血腫(SCH)、絨毛性疾患などの場合もあります。しかし、これまでにホルモン補充周期移植後の妊娠初期出血と妊娠転帰に関する報告はほとんどありませんでした。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、ホルモン補充周期移植では47%の方が妊娠8週目までに出血を経験しますが、出血は妊娠転帰(流産率増加)に影響しないことを示しています。