本論文は、卵子1個あたりの出産率について、米国ボストンのひとつの施設で集計したものです。
Fertil Steril 2023; 120: 1210(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.08.972
要約:2014〜2020年に自己卵を用いて採卵した12,717名、248,004個の卵子を対象に、PGTの有無と年齢別に卵子1個あたりの出生率を後方視的に検討しました。結果は下記の通り。
余剰胚なし 卵子1個あたりの出産率
PGT無 PGT有
<35歳 3.80% < 3.82%
35〜37歳 3.12% < 3.73%
38〜40歳 2.34% < 2.91%
41〜42歳 1.39% < 1.52%
43歳〜 0.55% < 0.90%
合計 2.79% < 2.88%
余剰胚あり 卵子1個あたりの出産率(全ての余剰胚を使い切った場合で計算)
PGT無 PGT有
<35歳 11.93% > 9.43%
35〜37歳 8.72% > 8.19%
38〜40歳 5.08% < 5.66%
41〜42歳 2.24% < 2.87%
43歳〜 0.97% < 1.39%
合計 8.94% > 7.13%
解説:卵子1個あたりの出産率に関する質問はしばしばあり、ART治療(体外受精、顕微授精)実施に際して開示すべき情報だと思いますが、適切なデータがこれまでありませんでした。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、卵子1個あたりの出産率を明確にしています。余剰胚あり(1回の採卵で全てを移植せず妊娠している場合)と余剰胚なし(1回の採卵で全てを移植に使い切っている場合)で検討したところ、余剰胚ありの場合に37歳までであれば、PGTしない方が出産率が高くなっています。これは、たくさん採卵できた場合には、一番良い胚から移植するため、(PGTせずとも)結果的に正常胚から移植する可能性が高いことを示しています。言い換えると、PGTはbiopsyのため、PGT無しよりも受精卵へのダメージがある可能性を示唆します。
卵子1個あたりの出産率は多くても10%しかありません。如何に多くの卵子を採取するか、つまり刺激周期のメリットを間接的に示した研究であるとも言えます。
下記の記事を参照してください。
2022.11.25「☆若年の卵子凍結と高齢の採卵PGTどちらが良い?」
2022.7.25「☆凍結自己卵子の融解による培養成績および妊娠成績」
2021.6.3「妊孕性温存 ①卵子凍結」
2017.4.20「☆☆出産に必要な凍結卵子の数は?」
2016.3.22「☆☆出産に必要な卵子の個数は?」