Q&A3802 現在妊娠中、出産の件で相談 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2021.7.22「Q&A2998 38歳、採卵4回、移植5回、流産1回」、2022.7.4「Q&A3347 採卵前後の体調不良は普通なのでしょうか」、2022.11.6」Q&A3472 保険採卵2回胚盤胞ならず」、2023.4.2「Q&A3619 フローラ検査など質問」、2023.4.8「Q&A3625 太りたいです」、2023.5.29「Q&A3676 子宮内膜症の痛みに耐えられませんでお世話になりました。リプロで授かり無事卒業し、2023.9.11「嬉しい報告:リプロ最後の移植で妊娠」で報告させていただきました。現在妊娠16週目に入りましたが、色々気になることがあり、また質問させて頂きます。

41歳、橋本病チラージン内服、シェーグレン症候群(SS-A抗体、セントロメア抗体、クレアチン0.7~0.9程度やや高め。排卵抑制でボルタレン座薬や生理痛でロキソニン飲むと0.9~1.0に上昇程度で経過観察中)右卵巣皮様嚢腫(オペしてからどんなに刺激しても卵子とれず)、左チョコレート嚢腫(チョコレート嚢腫があっても採卵は全て左が育ちました。その経緯から左はオペせずにいます。内膜症トラブル生理痛、排卵痛が激痛で困ってましたが、年齢的に不妊治療を優先してきました。2023.5.29「Q&A3676 子宮内膜症の痛みに耐えられませんで相談して、アドバイス内容の漢方と鍼灸で対応してきました)。

妊娠5週目に左チョコレート嚢腫が微小破裂し、激痛で入院しました。内膜症は妊娠すれば落ち着くと聞いてたので、まさかの出来事でした。幸い、胎児は無事に心拍確認できました。破裂時8cmだった卵巣が、リプロ卒業10週目の時には3.8cmまで縮小しました。

①シェーグレンかかりつけ膠原病内科(母性内科と産科カンファレンスしたようです)より、年齢や基礎疾患、腎機能考慮し、妊娠高血圧症予防に低用量アスピリン療法を提案され、13週より飲むことになりました。
私としては、チョコレート嚢腫破裂したばかりなので出血が心配なのですが、妊娠中は内膜症悪化要因がないから大丈夫とのこと。心配ならばと1番少ない量(バファリン81mg)で開始となりました。しかしバファリンは胃がムカムカして飲みにくく、腸溶剤のバイアスピリン100mgへ変えてもらいました。色々調べると、適量記載がバラバラでした。松林先生なら、出血リスク考慮したとして、何ミリの内服が妥当と考えますか。
②また、低用量アスピリン保険処方は28週までとのこと。それ以降はまた考えると言われましたが、いつまで続けるのがベストなのでしょうか。
③今後の内膜症管理ですが、2017.8.1Dr. Mの診療録 その7:妊娠して内膜症を治療しよう!?を読みました。帝王切開分娩と同時に処置をしたと記載ありますが、チョコレート嚢腫オペをしたと解釈してよろしいでしょうか。大学病院周産期センターで分娩予定なので希望すれば私も受けられそうな気もしますが、担当医に何と相談すればよいのでしょうか。あまり自ら帝王切開分娩を希望するようなことはしない方がよいのでしょうか。
④仮に、同時オペが可能だったとして。今回の妊娠は最後の胚移植だったので、貯卵ありません。もし、第二子が欲しくなった際は、かなり厳しい採卵結果になるのは目に見えてます。しかし、一度のオペと入院期間で内膜症治療が何とかなるならば、検討の余地もあるのではと気持ちが揺らいでます。夫とも相談したいのでメリット、デメリット教えてください。
⑤私の移植必勝法は人工授精+自然周期でした。チョコレート嚢腫保存で経過した場合は、2023.5.29「Q&A3676 子宮内膜症の痛みに耐えられませんで提案頂いたホルモン治療しない方がよいですか。
⑥なぜ妊婦さんは、左シムス位が良いのでしょうか。右シムス位でも大丈夫でしょうか。

 

A 

①アスピリンは通常量では鎮痛作用があります。低用量では鎮痛作用がなく血小板抑制作用が生じます。なお、低用量は81〜100mgを指します。2013.11.3「☆NSAIDsとCOXとは? 基礎編」の記事*を参照してください。

アスピリン・ジレンマ:アスピリンの投与量により血栓形成効果が減弱されたり、増強されたりする現象のことを言います。これは、血小板と血管内皮細胞のプロスタグランディン(PGI2とTXA2)の合成を抑制する程度が、アスピリンの投与量により変化するためです。
 TXA2:血小板凝集促進(血小板のCOX1)、血管収縮作用
 PGI2:血小板凝集阻害(血管内皮細胞のCOX2)、血管拡張作用
低用量(成人で81~100mg/日)のアスピリンでは、血小板のCOX1を阻害する一方で血管内皮細胞のCOX2を余り阻害しないため、PGI2/TXA2比が上昇し、血栓の予防になりますが、通常量のアスピリンではCOX1もCOX2も阻害するためPGI2/TXA2比は低下し抗血栓作用が失われます。
②日本の薬剤の添付文書に「出産予定日12週以内は禁忌」と記載されているため、原則として28週までの服用が推奨されます。しかし、海外ではこの記載がなく、出産まで服用していることも少なくありません。
③この方は卵巣内膜症でしたので、帝王切開の際にチョコレート嚢腫の処置も行いました。分娩は可能な限り経腟分娩が良いですが、医学的に必要があって帝王切開をする際には、同時に内膜症の処置をしてもらうのはありです。しかし、医学的な適応がない状態で帝王切開を希望されるのはよろしくありません(拒否される可能性あり)。
④帝王切開の際の処置する場合も、妊娠していない時期に腹腔鏡で処置する場合も、共通のメリットとデメリットがあります。

メリット:内膜症の細胞が減る、あるいは癒着剥離することで、腹痛が改善されます。QOLが向上します。

デメリット:卵巣の正常な部分が減ることで、卵巣機能が低下する可能性があめが。卵胞が全く育たなくなったり、採卵ができなくなってしまう可能性もあります。
2023.5.29「Q&A3676 子宮内膜症の痛みに耐えられませんと同じ方法が良いです。
⑥妊婦に限らず、お腹が大きく太った方も、右シムス位よりも左シムス位が良いです。その理由は、背骨の右側に下大静脈があるため右シムス位にすると下大静脈が圧排され下肢からの血流が悪くなる可能性があるためです。左シムス位の場合には、下大静脈が圧排されません。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。