精子調整法の違いで人工授精の妊娠成績は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、精子調整法の違いで人工授精の妊娠成績が異なるかどうか後方視的に検討したものです。

 

Fertil Steril 2023; 120: 617(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.05.153

要約:2014〜2021年に新鮮射出精子による人工授精を実施した1,503名の女性を対象に、密度勾配遠心分離法1,687名単純洗浄法1,691名の2群に分け、妊娠成績を後方視的に解析しました。臨床妊娠率および出産率は2群間で有意差を認めませんでした(オッズ比1.10、95%信頼区間0.67~1.83、およびオッズ比1.08、95%信頼区間0.85~1.37)。排卵誘発による層別化(注射あり、内服あり、薬剤なし)解析を行なっても、有意差を認めませんでした。また、精子の状態による層別化解析でも、有意差を認めませんでした。

 

解説:人工授精は不妊治療の第一選択です。人工授精で未処理の精液を用いると、精子活性酸素増加、子宮収縮増加、骨盤感染増加などのリスクがあるため、人工授精のための精子調製では、精液と不純物を除去し、運動精子を抽出します。現在、密度勾配遠心分離法と単純洗浄法が行われており、前者がゴールドスタンダードと考えられています。前者は高価で時間がかかり収量も低くなりまが、後者は迅速かつ簡便な方法です。本論文は、精子調整法の違いで人工授精の妊娠成績が異なるかどうかについて後方視的に検討したものであり、密度勾配遠心分離法と単純洗浄法で臨床妊娠率や出産率に有意差を認めなかったことを示しています。成績が同じであるならば、迅速かつ簡便な単純洗浄法が良いのではないかと結論づけています。しかし、後方視的検討の一つの論文だけでは結論を出すことはできず、大規模な前方視的研究が必要です。