子宮鏡併用による腹腔鏡下帝王切開瘢痕修復手術:ビデオ論文 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、子宮鏡併用による腹腔鏡下帝王切開瘢痕修復手術を紹介したビデオ論文です。

 

Fertil Steril 2022; 118: 1196(日本)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.08.861

要約:33歳の女性が、2年前に骨盤位のため38週で実施した帝王切開瘢痕部からの不正出血に悩まされていました。経腟超音波検査により、後屈子宮と帝王切開瘢痕部の残存筋層が2.4mmであることが判明しました。子宮鏡併用による腹腔鏡下帝王切開瘢痕修復手術では、術者の正面左に子宮鏡、正面右に腹腔鏡のモニタを設置し、両方を同時に見ながら手術が行えます。

 

ステップ1:子宮鏡(ローラーボール)により、帝王切開瘢痕部分に電気メス凝固によるをつけます。

ステップ2:子宮鏡(ループ電極)により、帝王切開瘢痕部の肉芽組織の切除を行い、筋層を薄くします。

ステップ3:腹腔鏡により、膀胱を十分剥離します。腹腔鏡の光を消し観察すると、子宮鏡の光が帝王切開瘢痕部の最も薄い部分を示しますので、その部分に腹腔鏡の電気メス凝固によりをつけます。

ステップ4:腹腔鏡により、印をつけた中央部分から、子宮筋層に垂直に切開を加えます。切開したデバイスを抜くと同時に子宮鏡の灌流を停止すると、腹腔内の空気(CO2ガス)が子宮腔内を満たします。

ステップ5:腹腔鏡により、モノポーラ電気メスでの筋層切除を行います。この際に、子宮鏡側で印をつけた場所が明確に確認できるため、頭側尾側ともに切除すべき部分まで腹腔鏡でしっかり切除が行えます。最後は、2層縫合により子宮筋層を閉鎖します(結節縫合、減張縫合)。後屈子宮の場合には、傷の修復を助けるために、円靭帯の短縮縫合を行います。

 

術後2週間の超音波検査で、残存筋層が9.8mmに改善していることを確認しました。

 

 

 
 

解説:これまで実施されていた帝王切開瘢痕修復手術には2通りで、子宮鏡により瘢痕部の不良肉芽組織を切除するもの、腹腔鏡により瘢痕部の筋層を切除し縫合により修復するものがありました。前者は筋層の修復ができていません、後者はどこまで切除すれば良いか明確な指標がありませんでした。本論文は、子宮鏡併用による腹腔鏡下帝王切開瘢痕修復手術を行うことで、両者の弱点を補完しうる非常に優れた方法を紹介しています。キーポイントは、子宮内を水で灌流する代わりに、腹腔鏡の空気で拡張させることです。まさに逆転の発想と言ったところです。

 

本論文の筆頭著者は、リプロ東京で時々外来を手伝ってもらっています。彼の論文が世界に発信され、本当に嬉しく思います。