妊娠初期の帝王切開瘢痕部離開修復術:ビデオ論文 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、妊娠11週での帝王切開瘢痕部離開修復術を紹介したビデオ論文です。

 

Fertil Steril 2022; 118: 591(カナダ)DOI:https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2022.05.039

要約:35歳、妊娠2回出産1回(3年前に難産のため帝王切開)の女性が、妊娠10週3日で帝王切開瘢痕部の離開のため紹介来院されました。なお、妊娠初期胎児スクリーニング検査は全て異常ありませんでした。 経膣超音波検査により、欠損部は26x10x10mmであり漿膜に達しており、子宮筋層は完全に欠損していました。患者さんに、①子宮破裂リスクは不明のため、経過観察し早めに帝王切開を行う、②手術には合併症や流産リスクを伴うが、離開修復術を行う、③妊娠中絶してから、離開修復術を行う、の3つを提案したところ、②を選択されたため、妊娠11週6日経膣超音波ガイド下腹腔鏡手術を実施しました。手順は次の通り。

1 膀胱を子宮から剥離し術野を確保。

2 経膣超音波ガイドにより欠損部を確認:腹腔鏡の鉗子をタッピングする様子を経膣超音波で観察することにより、欠損部を正確に把握する。膀胱剥離が不十分な場合は、さらに膀胱を下方に剥離して、縫合可能なスペースを確保する。

3 2層縫合で筋層を縫合し補強:欠損部をまたぐように筋層を端から縫合する。止血確認後に漿膜を縫合。

 

術後経過良好で、術後1ヶ月での帝王切開瘢痕部の筋層は8mmであり、新たな瘡部離開を認めませんでした。妊娠36週での帝王切開術中の子宮筋層修復部位は問題なく、無事出産しました。帝王切開術後1ヶ月での帝王切開瘢痕部の筋層は6mmでした。

 

 

解説:妊娠初期の帝王切開瘢痕部離開の取り扱いについて、世界的に一致したコンセンサスや対処法(手術法)はありません。妊娠14〜16週開腹手術による修復を多なった6例(2014年)、妊娠23週でブタ由来のパッチで開腹手術にる修復を行なった1例(2019年)、妊娠8週経膣超音波ガイド下腹腔鏡手術にる修復を行なった1例(2016年)、いずれも帝王切開により出産に至っています。また、妊娠35〜38週で帝王切開瘢痕部の子宮筋層の厚さにより子宮破裂が生じたかどうかを前方視的に検討したコホート研究では、2.3mm未満では9.1%で子宮破裂が生じ、2.3mm以上では子宮破裂は起こらなかったとしています(Am J Obstet Gynecol 2009; 201: 320.e1)。しかし、妊娠初期の帝王切開瘢痕部の子宮筋層の厚さが何mmだと大丈夫あるいは大丈夫ではないというデータはありません。本論文は、妊娠11週での帝王切開瘢痕部離開修復術を紹介したビデオ論文であり、安全かつ正確な手術が実施できることを示しています。帝王切開率が増加している現代では、帝王切開瘢痕部離開はしばしば目にしますが、どのような場合にどのタイミングで手術すべきかは明らかではありませんので、今後の検討が必要です。