Q&A3424 培養士から質問2つ | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 私は地方のクリニックで培養士をしているのですが、困った症例があり、ぜひ松林先生のご意見をお聞かせ願いたく、メッセージを送らせていただきました。2症例とも顕微授精実施のために卵巣刺激を行い、すでに採卵を複数回行なった方です。また、当院の卵巣刺激法は低刺激法を採用しており、クロミフェンの服用をベースに、必要に応じて2〜3回注射をすることもあります。採卵された卵は基本的にすべて胚盤胞培養をおこない、凍結胚移植をしています。

<症例1>
初回採卵時38歳、現在40歳。9回採卵を行っておりますが、どの周期の卵も極体の出現は認めますが、完全に出ることはなく、全体が細胞質に埋め込まれているような状態です。また、透明帯がきれいな球形ではなく、表面が不整でギザギザしていて張りもなく、インジェクションピペットを当てただけでピペットが入ってしまいます。受精をすることは多いのですが、グレード4で終了することが多く、採卵を行った9周期のうち、3周期は状態は良くないながらも、なんとか胚盤胞になった胚があり、凍結胚移植を実施していますが、妊娠成立には至っておりません。直近の5周期にいたっては受精もしなかったり、初期胚のまま成長が止まってしまったり、グレード4で終了してしまったり、移植できずに治療中断といった状況が続いております。状態の良くない卵自体はそう珍しくはないように思いますが、この方は先述したような卵が毎回採卵されるので、こういった方は体質として致し方ないのか、それとも卵巣刺激や卵の培養の方法で改善の余地はあるのでしょうか。また、この方は10年程前に自然妊娠されており、一人出産されています。一人目のときもこのような状態の卵だったということも可能性としてはあると思いますが、元々はそうではなく、一人目ご出産のあとにこのようになってしまったとすれば、何か考えられる原因などはあるのでしょうか。

<症例2>
初回採卵時35歳、現在37歳。6回採卵をされておりますが、胚盤胞になり移植できたのは初回の1回のみです。初回は体外受精を実施したのですが、採卵された9個の卵のうち、1PN1個、0PN7個、3PN1個でした。1PNのみ分割し、グレードはあまりよくありませんでしたが6日目に胚盤胞となり凍結胚移植を実施しましたが妊娠には至りませんでした。これを受け、採卵2回目以降は顕微授精としました。しかし、2回目は採卵した3個ともがMⅠ(未熟)で顕微授精できず、3回目は8個採れましたがMⅠ(未熟)が5個、GV(未熟)が1個、MⅡ(成熟)が2個で顕微授精で受精するも分割せず培養中止となりました。4回目はHCGを2A注射して採卵するも、採れた卵3個すべてがMⅠ(未熟)でした。5回目と6回目は本人希望により体外受精に戻して実施しました。5回目は9個採れ、徐々に2PNが増えていき計5個が2PNとなりましたが分割したのは1個のみで、グレード4で培養中止。6回目は7個採れたうち4個が2PNとなりましたが分割せず培養中止となりました。注射の種類や量を変えてみたりしながら卵巣刺激をおこないましたが、やはりどの周期も卵の成熟の過程に問題があるのか、うまくいきません。このような方にできることはなにかありますでしょうか。当院では実施しておりませんがIVAなどを薦めるべきなのでしょうか。

両症例とも考えうる範囲で色々手を尽くしてみてはいますがなかなかうまくいきません。どうにか妊娠させてあげたいです。お忙しいところ大変恐縮ですが、先生のご意見お聞かせいただければ幸いです。

 

A 

<症例1>透明帯形成不全や極体放出障害の理由(原因)はわかりませんが、卵子の形成(産生)が上手くいっていないのは間違いないと思います。刺激薬剤の変更により改善される可能性は否定できませんが、自然妊娠されていますので、完全自然周期で一度採卵してみてはいかがでしょうか。

また、自己免疫疾患は生まれつきではなく、後天的に備わってきますので、卵巣の自己抗体などが新たに生じていれば、時間経過とともに変化(悪化)することは十分ありえます。私なら(完全自然周期で上手くいかない場合に)、プレドニン10〜15mgを併用して刺激周期で採卵してみます。

 

<症例2>体外受精では受精障害がありますので、顕微授精をしたいところですが、未熟が多いのが問題点です。体外受精で遅れて受精しているのは、最初は未熟で後に成熟して受精しているものと考えます。未熟卵が多いと培養成績も悪くなりますので、未熟問題が改善すれば全て改善する可能性があります。成熟対策として、HCG増量だけでなく、ダブルトリガー(HCG+ブセレ)とし、通常の時間より1〜2時間早めて打ったり、翌朝にもブースターとして再度トリガーを使ったり、採卵を日を遅くしたり、イノシトールを服用するなど、他にできることがありますので、ぜひ実施してみて欲しいと思います。

 

なお、このQ&Aは、約2週間前の質問にお答えしております。