イブプロフェンは卵巣莢膜細胞のアンドロゲン産生を抑制する | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、鎮痛剤のイブプロフェンが卵巣莢膜間質細胞のアンドロゲン産生を抑制することを示しています。

 

Fertil Steril Sci 2021; 2: 230(米国)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfss.2021.06.004

要約:30日齢SDラット36匹17βエストラジオール1mgを3日間皮下投与した後、卵巣を摘出し、莢膜間質細胞を分離しました。培養液にIL1β(1 ng/mL)あるいはLPS(100 ng/mL)を加えてアンドロゲン産生を刺激した上で、イブプロフェン(0.1 nM)投与による変化を検討しました。培養液中のアンドロステンジオン濃度は、IL1βおよびLPS投与で有意に増加しましたが、イブプロフェン投与で完全に抑制されました。同様に、アンドロゲン産生に関与する遺伝子(Cyp17a1、Cyp11a1、Hsd3b)は、IL1βおよびLPS投与で有意に増加しましたが、イブプロフェン投与で抑制されました。また、細胞数は、IL1βおよびLPS投与で有意に増加しましたが、IL1βの効果のみイブプロフェン投与で抑制されました(LPS投与の効果はイブプロフェン投与で抑制されませんでした)。

 

解説:多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では、アンドロゲン(男性ホルモン)有意な状態であり、アンドロゲンが卵胞発育に関与することが知られています。ヒトおよびラット卵巣莢膜細胞の培養系でIL1βおよびLPS投与により、アンドロゲン産生が亢進することが報告されています。また、男性ではイブプロフェン(1200mg/日x6 週間)投与により、テストステロン/LH比が有意に低下することが報告されています。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、ラットにおいて、イブプロフェンが卵巣莢膜間質細胞のアンドロゲン産生を抑制することを示しています。

 

この結果がどのように役に立つのかと言いますと、アンドロゲン(男性ホルモン)がキーワードになります。アンドロゲンが卵胞発育に関与する訳ですから、アンドロゲン増加させるテストステロンDHEAが卵胞発育にプラスに働き、アンドロゲン感受性を高めるレトロゾールも卵胞発育にプラスに働きます。一方で、イブプロフェンはアンドロゲンを減少させるため、卵胞発育中(月経から排卵まで)の使用を控えるのが望ましい訳です。

 

下記の記事を参照してください。

2018.3.22「☆イブプロフェンによる妊娠初期の胎児卵巣への影響

2015-07-08「市販の鎮痛剤(NSAIDs)の影響
2013-11-10「☆鎮痛剤を飲んでよい時期と種類は?

2013.11.3「☆NSAIDsとCOXとは? 基礎編」
2013.11.5「☆NSAIDsは着床を妨害するのか?」
2013.11.6「☆アスピリンを飲むのが心配です」

2013.5.25「☆排卵期には鎮痛剤を飲まないで!