ロキタンスキー症候群+泌尿器奇形:ビデオ論文 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、Mayer-Rokitansky-Kuster-Hauser(ロキタンスキー)症候群に泌尿器奇形を合併した珍しい症例のビデオ論文です。

 

Fertil Steril 2021; 115: 525(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.08.1433

Fertil Steril 2021; 115: 343(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.12.007

要約:28歳原発性無月経(一度も生理がない)+性交障害の女性は、8歳の時に直腸膀胱瘻(直腸と膀胱が繋がる)と鎖肛(肛門閉鎖)の修復手術を実施していました。染色体は正常(46,XX)、外陰部も正常ですが、膣は5mm程度の窪みしかなく、MRIにより両側卵巣を認めましたが、痕跡程度の子宮、膣欠損を認めました。また、膀胱の後ろに4cm大のシストを認め、左腎臓のみで(右腎欠損)、左尿管水腫+左水腎症右痕跡尿管膀胱尿管逆流グレード4を認めました。ロキタンスキー症候群の膣形成術には、腹膜を反転させるDavydov法を用いました。少量のアドレナリンを含む生理食塩水300mLを外陰部側の直腸と膀胱の間のスペース(膣の窪みの部分)から注入し、膣側から鈍的に指で拡張し、奥行き8cm、直径3cmのスペースを確保しました。腹腔内は、腹腔鏡により腹膜を遊離し、可動性のある腹膜を十分確保した上で、外陰部から腹膜を引っ張り膣の入り口に縫合しました(2-0バイクリル)。次に、膀胱鏡では、左尿管口のみで、右尿管口の欠損を認め、シストによる尿路通過障害と判断し、左尿管をシスト上端で切断し、膀胱上部に新たな尿管開口部を作り、WJステントを挿入した上で、尿管膀胱吻合を実施しました(3-0バイクリル)。シストを摘出した後、後腹膜を閉じる際に、卵巣、痕跡子宮、直腸、膀胱腹膜を巾着縫合することにより、膣上部の天井を形成しました。その後の1ヶ月間は昼夜問わずプラスチックの型枠を新しい膣内に挿入しておきました。その後は性交できるまで、夜間のみプラスチックの型枠を新しい膣内に挿入しました。なお、1年後の膣の長さは9cmとなっており、水腎症は軽度になりました。また、シストの病理所見はGartnerシストでした。

 

 

 

 

解説:Mayer-Rokitansky-Kuster-Hauser(ロキタンスキー)症候群は、生まれつき膣上部と子宮がありませんが、卵巣は正常に機能しています。また、外陰部と膣下部も正常にあり、染色体も正常女性(46,XX)です。ロキタンスキー症候群の頻度は1/5000と報告されています。本論文は、ロキタンスキー症候群に泌尿器奇形を合併した方に、Davydov法での膣形成術と同時に、尿路形成術を実施したビデオ論文です。女性生殖器はミュラー管(中腎傍管)から、男性生殖器はウォルフ管(中腎管)から発生しますが、Gartnerシストはウォルフ管由来です。本症例は、ミュラー管とウォルフ管の同時発生障害であり、極めて珍しい症例です。

 

ロキタンスキー症候群の膣形成術は、かつてS状結腸を用いる方法が実施されていましたが、最近では低侵襲性かつ簡便かつ治療成績も良いため腹膜を用いるDavydov法が行われることが多いようです。ただし、膣形成術だけでは子宮は作れませんので、お子さんを授かることはできません。

 

コメントでは、本論文の意義を評価しながらも、泌尿器奇形の部分の診断の甘さと尿管膀胱吻合の記述が不十分であるとしています。

 

ロキタンスキー症候群については下記の記事を参照してください。

2019.8.10「ナイルティラピアの皮を用いた造膣術!?

2017.8.12「ロキタンスキー症候群の遺伝子診断は?

2016.10.8「ロキタンスキー症候群の頻度