ナイルティラピアの皮を用いた造膣術!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、Mayer-Rokitansky-Kuster-Hauser(ロキタンスキー)症候群の方にナイルティラピア(Nile Tilapia)の皮を用いた造膣術を実施したビデオ論文です。

 

Fertil Steril 2019; 112: 174(ブラジル)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.04.003

要約:17歳のロキタンスキー症候群の女性の膣形成術にナイルティラピアの皮を用いたMcIndoe法による造膣術を行いました(https://youtu.be/35jq3WDfInU)。ナイルティラピアの皮を、2%クロルヘキシジン30分→50%グリセロール→75%グリセロール→99%グリセロール→コバルト60照射30kGの順に滅菌します。使用前に生理食塩水で洗浄し、アクリルの型枠に滅菌したナイルティラピアの皮を巻き、polyglactin 3.0糸で単結節縫合により固定したものを準備しておきます(膣の内側に魚の外側がくる)。膀胱直腸窩を3cm横切開し、奥に鈍的に拡張し膣のスペースを確保します。ナイルティラピアの皮+アクリル型枠を膣スペースに挿入し、外側をpolyglactin 1.0糸で単結節縫合により4箇所固定します。9日後にアクリルの型枠を除去すると、ナイルティラピアの皮は一部吸収されていました。その後の1ヶ月間は昼夜問わずプラスチックの型枠を新しい膣内に挿入しておきます。その後は性交できるまで、夜間のみプラスチックの型枠を新しい膣内に挿入します。180日経過したところで、膣内の細胞を採取し観察したところ、5層構造の扁平上皮細胞に置き換わっていました。なお、膣の長さは8〜9cmとなっていました。

 

解説:Mayer-Rokitansky-Kuster-Hauser(ロキタンスキー)症候群は、生まれつき膣上部と子宮がありませんが、卵巣は正常に機能しています。また、外陰部と膣下部も正常にあり、染色体も正常女性(46,XX)です。ロキタンスキー症候群の頻度は1/5000と報告されています。本論文は、ロキタンスキー症候群の方にナイルティラピアの皮を用いた造膣術を実施した初めての報告です。魚の皮を用いるという荒技に驚きを隠せません。

 

McIndoe法は膣からのみのアプローチで実施可能ですが、通常は自己の皮膚を用います。この際には、長時間手術、感染リスク、膣内に毛が発育、皮膚を採取した部分に傷ができるなどの問題点があります。ナイルティラピアはスズキ目カワスズメ科の魚で、ブラジルでは手に入りやすい魚です。無菌であること、ヒトの皮膚に似た構造であること、ヒトの火傷の治療に有効であること、生体の吸収が良いことなどの利点が報告されています。本法は、簡単、安全、効果的、短時間、低侵襲、低コストであり、期待できる治療法です。ただし、本法では子宮は作れませんので、お子さんを授かることはできません。

 

ロキタンスキー症候群については下記の記事を参照してください。

2017.8.12「ロキタンスキー症候群の遺伝子診断は?

2016.10.8「ロキタンスキー症候群の頻度