本論文は、男性のパピローマウイルス(HPV)感染による影響に関するメタアナリシスです。
Fertil Steril 2020; 113: 955(イスラエル)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.01.010
Fertil Steril 2020; 113: 927(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.02.002
要約:これまでに発表された男性のパピローマウイルス(HPV)感染と精液所見および妊娠成績に関する16論文3718名のメタアナリシスを実施しました。結果は下記の通り。
両者の差
精子濃度 HPV(+) < HPV(ー) 448万/mL
精子運動率 HPV(+) < HPV(ー) 11.7%
正常形態精子 HPV(+) < HPV(ー) 2.4%
総精子数 HPV(+) < HPV(ー) 1768万
乏精子症の精子濃度 HPV(+) = HPV(ー) 〜
精子無力症の精子運動率 HPV(+) < HPV(ー) 1.6%
奇形精子症の正常形態精子 HPV(+) = HPV(ー) 〜
また、4論文でART治療による妊娠成績を検討しており、HPV(+)の方での妊娠率低下と流産率増加を示していますが、メタアナリシスを実施できるデータ数ではありませんでした。なお、重大なバイアスリスクを持つ論文が5論文あり、そのほかは中程度のバイアスリスクでした。
解説:かつて、男性ではHPV感染は一時的なものと考えられており、治療の対象としては考えられていませんでした。しかし、HPVに感染した精液では、HPVウイルスのDNAが精子の頭部に存在することや、HPVウイルスが精子に強固に結合し、通常の精子の洗浄方法では排除できないことが知られています。さらに、男性のHPV感染は持続的であり、しばしば抗精子抗体を合併し、精子運動率を低下せしめ、男性不妊の原因となるとの報告もあります。精液中のHPVウイルスは、無症状の男性も含め10~16%の男性に存在します。本論文は、男性のパピローマウイルス感染による影響に関するメタアナリシスを実施したところ、精液所見の低下(精子濃度、精子運動率、正常形態精子)が認められることを示しています。
コメントでは、ライフスタイルの因子の検討が欠けている事、乏精子症の方や奇形精子症の方で有意差を認めないこと、妊娠成績は論文が少なすぎることから、精子運動率に対する悪影響のみを取り上げるべきであるとしています。また、米国では11〜26歳の全ての男女にHPVワクチン投与を開始しており、その効果を見守りたいとしています。さらに、非常に興味深い次の論文を紹介しています(ただし、後方視的検討なので解釈には注意が必要です)。
Sci Rep 2018; 8: 912(イタリア)doi: 10.1038/s41598-018-19369-z
要約:2013〜2015年に精液中にHPVを認めた不妊男性151名を、HPVワクチン接種群79名と非接種群72名の2群に分け後方視的に検討しました。精液中のHPVは1年後にそれぞれ10%と71%に減少し、自然妊娠率はそれぞれ38%(30/79)と15%(11/72)で有意差を認めました。妊娠された方は全てで精液中のHPVが消失していました。また、流産率はそれぞれ64%(7/11)と3%(1/30)で有意差を認めました。HPVワクチン接種群の精子直進運動率と抗精子抗体は有意に改善しました。
パピローマウイルスについては、下記の記事を参照してください。
2019.6.19「☆精液中のヒトパピローマウイルスの影響は?」
2018.8.23「Q&A1929 ☆子宮頸癌ワクチンの選び方」
2018.5.26「☆HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの有用性について」
2014.5.6「☆精液中のパピローマウイルス」
2013.7.20「子宮頚癌に対する新しい子宮温存手術後の妊娠予後」
2013.4.8「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンとは」