☆精液中のパピローマウイルス | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

精液中のパピローマウイルスについてのメタアナリシスをご紹介致します。ヒトパピローマウイルス(HPV)子宮頚癌の原因ウイルスであることが知られていますので、女性の病気という認識が大半ですが、性行為で感染しますので男性も関与しています。本論文は、精液中のパピローマウイルスは10~16%の男性に存在することを示しています。

Hum Reprod 2014; 29: 640(カナダ)
要約:精液中のHPVに関する27論文、4029名のメタアナリシスを行いました。HPV遺伝子はドナー精子の7.5~26.3%に認められ、特にHPV-16が最多の型でした。妊娠治療群では16%、一般集団では10%にHPVが認められました。これらのHPVはウイルス活性(感染力)を持っていました。また、無症状の男性の精液中にもHPVが存在しました。HPVが結合した精子からHPVを除去する方法はみつかっていません

解説:男性ではHPV感染は一時的なものと考えられており、治療の対象としては考えられていませんでした。しかし、HPVに感染した精液では、HPVウイルスのDNAが精子の頭部に存在することや、HPVウイルスが精子に強固に結合し、通常の精子の洗浄方法では排除できないことが知られています。2013.3.28「パピローマウイルスは男性不妊に関連」では、男性のHPV感染は持続的であり、しばしば抗精子抗体を合併し、精子運動率を低下せしめ、男性不妊の原因となり得るという事実をご紹介しました。本論文は、精液中のパピローマウイルスは、無症状の男性も含め、10~16%もの男性に存在することを示しています。

そもそも、今回の検討はドナー精子によるHPV感染を危惧したことをきっかけに行われた調査です。ドナー精子を用いる場合には、手術や輸血の際と同様に、梅毒、B型肝炎、C型肝炎、HIVの検査が行われますが、HPVの検査は行われていません。HPV検査は簡便なキットが多数流通していますので、検査は可能です。ドナー精子の提供者は、性行動が活発な年齢でもあり、HPV感染のハイリスク群ですので、HPV検査が必要であると考えられます。もちろん、性行為による感染力とドナー精子を用いた人工授精による感染力は違うかもしれません。しかし、体外受精の妊娠率がHPV感染で低下するという報告もありますので、HPV感染のドナー精子を使った妊娠治療での妊娠率の低下につながると考えられます。これからは、男性のHPV検査が広まってくるでしょう。

パピローマウイルスと女性については、下記の記事を参照してください。
2013.7.20「子宮頚癌に対する新しい子宮温存手術後の妊娠予後
2013.4.8「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンとは」