☆精子のIZUMOと卵子のJUNOで受精する | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ヒトにおいても精子のIZUMOと卵子のJUNOで受精が起きることを示しています。

 

Hum Reprod 2019; 34: 118(フランス)doi: 10.1093/humrep/dey340

要約:マウスを用いて抗JUNOモノクローナル抗体3種類を作成しました(FJ2E2、FJ8E8、FJ4F5)。抗JUNO抗体がJUNOに結合すること、IZUMO添加によりこの結合が抑制されることを確認しました。抗JUNO抗体を用いてヒト卵子を免疫染色したところ、卵子の表面に結合したため、ヒト卵子でのJUNOの存在が明らかとなりました。また、JUNO発現は卵子の成熟度とともに増強しました。また、抗JUNO抗体を添加すると、ヒト卵子とヒト精子の受精障害が起こりました(なお、フランスの法律により透明帯を除去したヒト卵子で実施しました)。

 

解説:マウスでは、受精に必要なタンパクとして卵子表面のCD9が初めに発見されました。2005年に精子のIZUMOが(Nature 2005; 434: 234)、2014年に卵子のJUNOが見つかり(Nature 2014; 508: 483)、精子のIZUMOと卵子のJUNOが結合することで精子と卵子の膜結合が起きることが明らかになりました。IZUMOとJUNOのどちらをノックアウトしても精子と卵子の結合が起きず、完全な不妊になります。一方、CD9はIZUMOとJUNOの結合を促進する働きがありますが、これをノックアウトしても完全な不妊にはなりません。ヒトでは、2005年にIZUMO、2006年にCD9の存在が確認されましたが、ヒト卵子でのJUNOの存在は証明されていませんでした。本論文はこのような背景のもとに行われ、ヒト卵子のJUNOの存在が確認でき、受精への関与を示しています。不妊症の原因として受精障害はそれほど多くないかもしれませんが、IZUMO、JUNO、CD9の検査を含め、不妊原因の解明と新しい治療の開発に光明をもたらした素晴らしい研究です。