耐糖能異常の男性にはメトホルミンが有効!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ある患者さんが、男性不妊へのメトホルミン治療についての日本産科婦人科学会の抄録(2008年P1-42)をお持ちになりましたが、それだけでは不十分のため他に関連の論文があるかどうか調べてみました。本論文は、耐糖能異常(インスリン抵抗性)の男性にはメトホルミンが有効であることを示しています。

 

Andrologia 2015; 47: 974(南アフリカ)doi: 10.1111/and.12366

要約:空腹時のインスリンが9.2以上の高インスリン血症の男性34名を対象に、メトホルミン単独群(19名)とメトホルミン+抗酸化サプリ群(15名)の2群に分け、精液所見を比較しました。2群とも精子の正常形態率が有意に改善し、クロモマイシンAが有意に低下しました。しかし、2群間には有意差を認めませんでした。


解説:耐糖能異常(インスリン抵抗性)は肥満の方に見られることが多く、血糖を下げるためにより多くのインスリンを必要とする状態です。女性では、卵子(卵胞)の発育や着床、不育症との関連が示唆されています。一方男性では、テストステロン低下、DNA凝集低下との関連が示唆されています。DNA凝集低下は、クロモマイシンA増加によるDNA損傷をもたらし、活性酸素増加と併せて、男性の妊孕性低下につながります。本論文は、耐糖能異常(インスリン抵抗性)の男性にはメトホルミンが有効であることを示しています。非常に興味深い論文ですが、ランダム化試験ではないことと症例数が少ないため結論づけることはできません。人間の身体は男女とも同じような仕組みであることが考えられますので、精子も卵子と同じ注意が必要であることは想像に難くありません。例えば、精子も卵子も熱に弱いこと、精子も卵子も直近の3ヶ月程度の環境が重要であることなどです。今後の検討が必要ですが、男性にも耐糖能異常(インスリン抵抗性、HOMA-R)の検査を行って、異常がある場合にはメトホルミンを使用する意義はあるかもしれません。