「流産」のリスク因子第2弾は、キスペプチンと流産の関連についてです。
Fertil Steril 2018; 109: 137(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.09.029
Fertil Steril 2018; 109: 67(ブラジル)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.10.014
要約:2013〜2016年に流産した方20名と妊娠継続の方20名から妊娠6〜10週で採血を行い、キスペプチン54濃度を測定しました。また、妊娠していない方19名のキスペプチン54濃度も測定しました。なお、症例対照研究であり後方視的検討で、キスペプチン54濃度の測定感度は、0.024 ng/mLです。結果は下記の通りで、全てに有意差を認めました。
妊娠継続 流産 非妊娠
キスペプチン54 1.50 0.20 0.07
hCG 117,202 4739 〜
また、キスペプチン54は妊娠週数増加とともに増加しました。流産群ではhCGとキスペプチン54の間に正の相関を認めましたが、妊娠継続群では相関を認めませんでした。hCGとキスペプチン54をプロットすると、流産群と妊娠継続群で分布の領域が明らかに2群に分かれました。
解説:キスペプチン(メタスチン)はKiss1遺伝子産物で、脳の視床下部や生殖細胞で産生されるペプチドです。
1996年:Kiss1遺伝子発見
米国ペンシルバニア州立大学の研究グループが、癌転移抑制能を持つ遺伝子をクローニングしました。「Suppressor Sequence(抑制遺伝子配列)」の頭文字と大学の所在地「ハーシー」にあるハ ーシー社の「Kiss chocolate」からKiss1遺伝子と名づけられました。
2001年:キスペプチン(メタスチン)発見
日本人の研究グループがヒト胎盤抽出物から癌転移抑制因子を見い出し、メタスチン(メタ=転移)と命名しました。これは、Kiss1 遺伝子産物であり、GPR54の内因性リガンドであることが明らかとなりました。
2003年:キスペプチンと生殖の関連が明らかとなる(Kisspeptin→GPR54→GnRH)
GPR54を欠損した人の家系では性成熟が起こらない(思春期が来ない)ことが報告されました。その後、キスペプチンがヒトを含む動物の生殖機能制御の中心的な役割を担っていることを示す証拠が次々と発表され、視床下部からのGnRHホルモンの強力な分泌促進作用をもち思春期の開始に重要であることがわかってきました。性やファーストキスを連想させる「キスペプチン」のネーミングが当を得たものとなったため、メタスチンではなくキスペプチンと呼ばれるようになりました。
キスペプチンのアミノ酸数には54、14、13、10個の4種類があります。キスペプチンの生理効果を持つ重要な部分(コアペプチド)は、C末端側の10個のアミノ酸からなるペプチド(キスペプチンh10)であり、キスペプチンh10のアミノ酸配列は多くの動物で共通です。このように種を越えて同じ物質が認められる場合、キーポイントの物質である可能性が高いと考えられます。また、妊娠中にキスペプチンは1000~10000倍に増加しますので、妊娠維持や胎児の発育にも関与していると考えられています。最近の研究では、キスペプチンは胎盤機能や胎盤形成に重要な役割を担っていることが報告されています。本論文の研究はこのような背景の元に行われ、hCGとキスペプチン54を組み合わせることにより、流産群と妊娠継続群を区別できる可能性を示しています。まだ症例対象研究の段階であり、結論を導くことはできませんが「流産の予測が可能になる」時代を予見させる期待度の高い研究です。
コメントでは、本研究はフェイス3研究の段階で、フェイス4研究(前方視的コホート研究)が必要であるとしながらも、キスペプチン54 <0.2 ng/mLで80%流産するといった予測が可能になれば、新たな産婦人科診療が可能になると結んでいます。
キスペプチンについては、下記の記事を参照してください。
2017.9.11「キスペプチンによるダブルトリガーの有用性は?」
2015.8.10「☆キスペプチンの卵巣刺激作用」
2014.12.28「顆粒膜細胞のニューロキニンとキスペプチンの役割」
2013.12.19「☆キスペブチンとは?」