精子DNA断片化の多い方には精巣精子が有用:メタアナリシス | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、メタアナリシスにより、精子DNA断片化(DNAダメージ)の多い方には射出精子より精巣精子が有用であることを示しています。

 

Fertil Steril 2017; 108: 456(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.06.018.
要約:DNA断片化の多い方を対象に、射出精子と精巣精子(TESE)の比較をした5研究143名のメタアナリシスを行いました。射出精子より精巣精子DNA断片化は有意に低率(25%減)でした。507周期、3840個の卵子の培養成績及び妊娠成績を検討したところ、受精率は同等でしたが、射出精子より精巣精子臨床妊娠率(2.42倍)と出産率(2.58倍)は有意に高率であり、流産率は有意に低率(0.28倍)でした。

解説:精巣を出てから尿道まで(精路)の間に精子にダメージが与えられる可能性が示唆されており、これまで、重症な男性不妊の方では射出精子より精巣精子を使用する方が顕微授精の妊娠率が良いという報告がいくつかありますが、賛否両論があり結論が得られていませんでした。本論文は、メタアナリシスにより、DNA断片化の多い方には射出精子より精巣精子が有用であることを示しています。

 

精巣精子のDNAダメージが最も少なく精路を通過するとダメージを受けます。これは、特に射出精子のDNAダメージが強くみられる場合に、より顕著であることが知られており、射出精子がある方でも精巣精子を使用してみる価値があることを意味します。しかし、精巣精子を用いるには、男性の手術(TESE)が必要ですから、全ての方に行うわけにはいきません。どのような方が適しているか、何回トライしてダメだった場合に行うべきかなど、今後の検討を待たねばなりませんが、最後にやってみる価値があるかもしれません。

 

下記の記事をでは、極少精子症(cryptozoospermia)の方では、射出精子より精巣精子を使用する方が顕微授精の妊娠率が良いことを示しています。なお、極少精子症何回かに1回極めてわずかに射出精子が認められる場合です。

2013.7.7「☆精巣精子と射出精子はどちらが良い?