人工卵巣の研究:進捗状況 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

人工卵巣の研究はベルギーが最先端です。ほとんどベルギーからの論文発表しかありません。本論文は、フィブリンマトリクスを用いた人工卵巣研究の第2報です。

Hum Reprod 2016; 31: 427(ベルギー)
要約:NMRIマウスの卵巣を摘出し、原始卵胞~1次卵胞、2次卵胞を分離し、フィブリンマトリクスでこの卵胞を包んだものを、SCIDマウス(免疫不全マウス)の腹膜に移植しました。フィブリンマトリクスは、フィブリノーゲンとトロンビンを12.5:1で構成したものです。移植2~7日後に移植部位の組織を調べたところ、移植2日後の卵胞回収率は原始卵胞~1次卵胞で16%、2次卵胞で40%でした。同様に、移植7日後の卵胞回収率は原始卵胞~1次卵胞で6%、2次卵胞で28%でした。フィブリンマトリクスで包まれた全ての卵胞は生存しており、増殖も認められ、2次卵胞の移植7日後には胞状卵胞の段階までの発育も確認できました。

解説:人工卵巣の最大のメリットは、癌の方の生殖機能の温存です。卵胞には癌細胞は存在しないけれども、卵胞周囲の支持組織に癌細胞があるため、周囲組織を別のもので代用し、癌細胞が入らない卵巣凍結を可能にしたのが本論文の研究グループです。細胞は周囲の支持組織などの周りの環境の存在が重要であり、3次元構造をうまく構築することが大切です。本論文ではフィブリンマトリクスで3次元構造を構築することで、この難題をクリアしています。フィブリンマトリクスとして用いられたフィブリノーゲンとトロンビンは、血液凝固過程の最終スッテプの物質であり、クモの巣状の糊のようなものです。移植組織では、このクモの巣状の糊が生体の組織でうまく置き換わっていました。今後の課題は、もっと長い期間、人工卵巣の中で卵胞を発育させることです。

人工卵巣については、下記の記事を参照してください。
2015.7.3「人工卵巣の研究」
2015.6.21「ヒト卵巣組織の動物への移植」
2014.6.10「人工卵巣:癌の方の卵巣凍結に光明が、、、」