☆PCOSの第一選択はフェマーラ | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2014.11.6「PCOSにはクロミフェンよりフェマーラ!」では、極めて評価の高い雑誌「N Engl J Med」に掲載された内容として、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方には、クロミフェンよりフェマーラの方が排卵率、生産率共に優れていることをご紹介しました。本論文は、最もエビデンスがしっかりしたレビュー「Cochrane Database Syst Rev」の内容を要約したもので、やはりクロミフェンよりフェマーラの方が優れ、ドリリングと同じ効果があることを示しています。

Fertil Steril 2015; 103: 353
要約:2014年9月までに発表された全ての論文を調査しました。26件、5560名がフェマーラを使用したRCT研究でした。その結果のまとめは次の通り。
生産率(12RCT):フェマーラ>クロミフェン(1.64倍)、フェマーラ=ドリリング(有意差なし)
臨床妊娠率(25RCT):フェマーラ>クロミフェン(1.40~1.71倍)、フェマーラ=ドリリング(有意差なし)
OHSS(16RCT):いずれも稀(有意差なし)

解説:PCOSは生理不順の最大の原因であり、4~8%の女性が罹患します。アロマターゼ阻害剤であるレトロゾール(フェマーラ)は、2001年に卵巣刺激に初めて使用された比較的新しい製剤です。PCOSの方の卵巣刺激に何がよいのか、これまでにたくさんの研究が行なわれてきました。本論文は、多くの信頼できるRCT研究をまとめたもので、PCOSの方の卵巣刺激には、クロミフェンよりフェマーラの方が優れ、ドリリングと同じ効果があることを示しています。

PCOSに対するかつての治療戦略は下記の順でした(体外受精を考慮しない場合)。
1 クロミフェン(内服)
2 FSH製剤(毎日自己注射)
3 フェマーラ(内服)
4 ドリリング(腹腔鏡手術)
*以上の薬剤に追加して、メトホルミン(グリコラン)や糖質コルチコイド(いわゆるステロイドホルモン)もしばしば用いられます。

PCOSに対する最新の治療戦略は下記の順です(体外受精を考慮しない場合)。
1 フェマーラ(内服)
2 クロミフェン(内服)
3 FSH製剤(毎日自己注射) 
4 ドリリング(腹腔鏡手術)

ドリリングは極めて有効な方法であることが明らかとなっていますが、手術であるために最後の選択肢となっています。フェマーラは自費の薬剤であるという欠点はありますが、ドリリングと同等の優れた有効性を持ちます。フェマーラとドリリングでは単一卵胞が発育しますが、クロミフェンとFSH製剤では複数の卵胞が発育するため、多胎妊娠のリスクが高くなります。

しかし、今回のRCT研究にはエビデンスレベルの低いものも含まれるため、結論を導くためには、もっと症例数を増やした検討が必要です。