Q&A656 妊娠中のTSH | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 潜在性甲状腺機能低下症のためチラージンが25ug内服
①妊娠するまでは、TSH 1.31~1.67、人工授精にて妊娠後、4W4dでTSH 2.80だったのでチラージンが25から50に増えました。5W3dで胎嚢が確認出来ず6Wで流産となりました。
②自然妊娠しましたが、化学流産となりました。その際のTSHは0.92、今までで一番低い値でした。

TSHは数値が高いと甲状腺ホルモンが足りていない、低いと足りているとう解釈で良いのですか。赤ちゃんが自分では作ることが出来ないホルモンだから、お母さんからもらうから足りなくなる。つまり数値が高くなる。ということになりますか。チラージンを増やしてTSHを2.5以下にしてきましたが、2015.2.7「TSHの基準値に関する新たな見解」の記事を読むと私はチラージンを増やさなくても良かったのかな、でも発達障害などにならないためには2.5以下ではなくてはならないのでは、と考えてしまいコメントさせていただきました。

A 2015.2.7「TSHの基準値に関する新たな見解」の記事にも記載したように、米国甲状腺学会と米国臨床内分泌学会のガイドラインには、「妊娠を目指す女性は、甲状腺機能が正常の場合(fT4正常)でも、THS<2.5に維持するのが望ましい」と明記されています(最新の2012年版にも記載あり)。しかし、ご紹介した論文は、もしかするとそうではないかもしれないというものです。まだ確定していませんので、現状ではTSH<2.5を目標にするのが良いと思います。

また、赤ちゃんが甲状腺ホルモンを使うからホルモンが足りなくなるのではありません。妊娠中には、hCG(妊娠ホルモン)により、TSH受容体が刺激されるため、fT4が増加し、甲状腺機能がやや亢進した状態になります。したがって、通常はフィードバック機構により、TSHが減少します。①の妊娠の際にTSHが増加した現象が不自然であり、②の妊娠でTSHが低下した現象が自然なものです。しかし、妊娠すると甲状腺機能は大きく変動しますので、様々なパターンを取っても不思議ではありません。大切なのは、常にTHS<2.5を維持できるように薬剤を調節することです。