Q&A613 いろいろと考えが合いません | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2015.1.7「Q&A565 分割胚の融解胚移植でのアシステッドハッチング」の続き
現在、顕微授精で有名なクリニックに通っています。
12個採卵し9個成熟卵で、病院の方針でスプリット法とし、2PN胚3個ずつ1本に凍結します。
顕微授精7個→正常受精(2PN)4個→2PN凍結4個(3個+1個に分け凍結)
      1PN1個→胚盤胞→凍結
体外受精2個→正常受精(2PN)2個→2PN凍結2個(顕微授精の1個と合わせて凍結)
クリニックの方針で、顕微授精1PN由来の胚盤胞から移植と言われました。体外受精の正常受精(2PN)の胚から移植してもらえるよう頼みました。しかし、ミックス(体外受精2個+顕微授精1個)からの融解は、クリニックの方針でできないと言われました。ミックスしていると由来がわからないからだそうです。
男性不妊や受精障害もないため、顕微授精への抵抗が消えません。通常、このようにミックスで凍結しますか。その場合、やはり由来はわからないのでしょうか。また、採卵後の胚の説明もなく不安です。内膜も薄くホルモン補充周期でも厚くならず、移植キャンセルが続いています。自然周期ではやらないクリニックです。ホルモン補充周期でも排卵してしまい、それを見逃され移植されるとこでした。私がP4採血を依頼し排卵後が確認されました。度々不安な診断と病院の方針に気持ちがついていきません。胚を残したまま転院するか、もう一度クリニックに希望を言っても失礼にならないでしょうか。

A クリニックの方針とご本人のお考えがかみ合っていないように思います。このような場合は、通院自体がストレスになりますので、考えが合うクリニックに転院された方がよいのではないかと推察致します。

私も初回の採卵ではスプリット法を行っていますが、受精障害がないことが確認できれば、2回目以降は体外受精で行います(今回の採卵は初回ではなさそうですので、ここがまず第1の疑問点)。また、移植の優先順位は、2PN胚であり、1PNと0PNは良好胚だとしても後回しにしています(第2の疑問点)。2PN胚で凍結するクリニックはそれほど多くありませんし、私自身も行っていませんので、2PN凍結のメリットについてはわかりません。また、体外受精と顕微授精の胚をミックスで凍結することも通常はないと思います(第3の疑問点)。それこそ、その由来がわからなくなるからです。しかし、逆に由来をわからなくさせる狙いがあるとすれば話は違ってきます。さて、ミックスした胚は本当に区別できないのでしょうか。もし、凍結前の胚の写真が保存してあれば、周りの細胞のつき方や胚の中の構造などから、その由来を区別することができるかもしれません。これには余分な労力を要しますので、行ってもらえないかもしれませんが。

ホルモン補充周期しか行っていないと、自然周期が適切である方が妊娠できない可能性があります。移植周期に採血をしていないと、ホルモン不足の方や排卵してしまった方が妊娠できなくなります。これまでにも何度も述べていますように、あるひとつの方法しか行わないクリニックでは、それに合わない方は妊娠できない方になってしまいます。何でも行えるようにすることが、患者さんそれぞれに合わせた診療(テーラーメード医療)ができるので、取りこぼしが少なくなります(すなわち、多くの方が妊娠できる)。しかし、何でもできるような体制を構築すると、煩雑になるため、1人あたりの時間が余計に必要となり(待ち時間が増え)、ミスが増えるなどの弊害も生じます。待ち時間短縮のためには、オーダーを簡略化することが必要になります。このあたりがクリニックのジレンマだと思います。