子宮内膜の着床能の研究 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

子宮内膜の着床能の研究に関して、以前ERAテストでご紹介したスペインのグループから新たな論文が発表されました。少々難しいので、なるべく簡潔に記載します。

Hum Reprod 2014; 29: 2957(スペイン)
要約:ホルモン補充周期による子宮内膜調整を行い、5日目の内膜を採取しERAテストによって、着床の窓がズレているかいないかを調べました。ズレている方とズレていない方をそれぞれ6名ずつ、子宮内膜蛋白の分析を各種の方法で行いました。両者の間には24種類の蛋白の相違が認められ、炭水化物代謝に関する蛋白(PGM1、ENO1、SIAS)と、細胞増殖や成熟に関する核内mRNAスプライシング蛋白(HNRPL、SRSF3)が抽出されました。特に、PGRMC1(黄体ホルモン受容体の一部)とアネキシンA6は、着床能のある子宮内膜で有意に低下しており、妊娠歴のある正常子宮内膜においても着床期にのみに有意に低下していました(着床の前後では高くなります)。

解説:これまでにも同様な子宮内膜蛋白の研究が報告されていましたが、子宮内膜の着床能の有無による分類がなされていませんでしたので、よくわからない結果になっていました。本論文は、ERAテストにより、着床できる内膜と着床できない内膜を分類することで、着床に本当に必要な蛋白が何であるかを明らかにしたものです。

PGRMC1は、黄体ホルモン受容体の一部であり、黄体ホルモンに素早く反応する部分です。着床には黄体ホルモンが必須であるのは言うまでもありませんが、着床期のみポッカリ穴が空いたように減っていることが重要なのだと思います。また、アネキシン類は、個々の細胞をニュートラルにする働きがあり、細胞骨格の再構成に必要な蛋白で、子宮内膜や胎盤形成に重要な役割を担っているものと考えられます。

ERAテストは未だ実用段階にはありませんが、ERAテストを突破口に、今後の着床の研究が急速に進むことが予想されます。

着床の窓とERAテストについては、下記の記事を参照してください。
2014.8.7「☆☆着床の窓はいつ開く?」
2014.8.10「「着床の窓」について」
2014.10.6「☆着床の窓がズレている場合」