Q&A523 40歳、AMH 6.5、流産1回、海外在住 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 40歳、AMH 6.5、流産1回、海外在住
FSH 6.2、LH 7.3、テストステロン 0.61 ng/mL、子宮卵管造影検査 異常なし、正常形態精子2%、精子運動率41%

過去1年、生理周期が50日以上になる時が増え、不妊治療にかかって3か月ほどたちます。私のテストストロン値が0.61ng/mlあるにもかかわらず、担当医は「テストストロンが低いから」とすぐにDHEAを処方しました。飲み始めて3か月たちますが、生理周期は長いままです。生理周期とAMHから、PCOSであることは明らかだと担当医が言っているのに、DHEAを強くすすめてくる理由がわかりません。「副作用もあるしあまり飲みたくない」というと「卵の質を改善するために処方したのだから飲むように」といわれました。

日本のサイトで調べると、私のテストストロン値は実は高めのほうに位置すること、PCOSであれば特に男性ホルモン(テストストロン)を抑える努力をすべきで、DHEAは避けるべきと知り、びっくりしています。今は自主的にDHEA摂取をやめています。PCOSであればまず排卵できるように薬で刺激して様子を見ていくべきと思うのですが、それもなく、時間もないことだし体外受精に進もうと言われました。また、夫の精子に問題があるため、体外受精しか方法がないと言われ、手続きを始めるように指示されました。3か月前の精子の悪い状態の検査結果を見てから、精子の質、量改善用サプリを飲んでいますが、その改善結果を見るための再テストを体外受精前にする予定もないようです。海外でのケアが日本より適当なことは明らかですが、つっこんで質問するべきでしょうか。

A 担当医はおそらく、年齢だけを根拠にDHEAを処方していると思います。ドナー卵子が使用できる海外のクリニックでは、40歳以上の方は、DHEAを使って体外受精を1回行い、次はドナーという考えが基本にあります。ドナー卵子の使用ができない日本では、何とか改善策を打って、その方自身の卵子で妊娠を目指す努力をしています。その差が顕著に現れているものと考えます。

本来は、DHEASの採血を行いDHEASが低いことを確認してから、DHEAの処方をすべきなのですが、日本も含めDHEASの採血を実施している施設は少ないと思います。テストステロン採血も参考にはなりますが、DHEAは男性ホルモンだけでなく女性ホルモンの原料でもありますから、不足していた場合には補う必要があるでしょう(2014.3.26「☆男性ホルモン関連のまとめ」の記事を参照してください)。

テストステロンの単位には2種類あります。
 ng/dL = ng/mL x100 
検査センターで示す基準値は、実際の妊娠治療に必要な基準値とは異なります。
私は妊娠治療に必要な基準値として、
 20~100 ng/dL = 0.2~1 ng/mL
を用いています。
したがって、0.61 ng/mLは決して高い数値ではありません。DHEASを測定して低い(<200 μg/dL)ようであれば、DHEAの投薬のメリットがあると思います(この基準値も妊娠治療に必要な基準値です)。

PCOSの方は、男性ホルモンが高いことと、LH>FSHであることから、沢山の卵胞が発育しやすい環境にあります。これは卵子が少なくなってくる高齢の女性にとって悪いことではありません。私なら、DHEASを測定し、必要ならDHEAを投薬し(必要なければ投薬しません)、しっかり刺激を行って、十分な数の採卵を目指します。精子の状態からは、体外受精あるいは顕微授精が必要だと考えます。精子の改善状態については、当然検査すべきだと思います。