培養液によって赤ちゃんの大きさが変わる | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

培養環境は受精卵(胚)発育にとって重要です。本論文は、培養液によって赤ちゃんの大きさに違いが生じることを示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 2067(オランダ)
要約:2003~2006年に体外受精の新鮮胚移植によって単胎妊娠された方294名について、後方視的に検討しました。胚はVitrolife社(168名)あるいはCook社(126名)の培養液(2段階型培養液)を用いて培養しました。妊娠8週、12週、20週に胎児の大きさを計測し、また妊娠初期のマーカーとしてPAPP-A(pregnancy-associated plasma protein-A)とbeta-hCGを測定しました。妊娠8週では2群間のCRL(頭臀長)に有意差を認めませんでした。妊娠12週のPAPP-AおよびNT(nuchal translucency)には有意差がありませんでしたが、beta-hCGはVitrolife社(1.55 MoM)がCook社(1.06 MoM)より有意に高くなっていました。妊娠20週では、HC(児頭周囲長)とTCD(小脳間径)においてVitrolife社がCook社より有意に大きく、その差はそれぞれ1.8mmと0.4mmでした。

解説:これまでに、妊娠8週および12週ではVitrolife社とCook社の培養液で胎児発育に有意差を認めませんが、妊娠20週では、Vitrolife社がCook社よりBPD(児頭大横径)が1.14~1.36日有意に大きいと報告されています。本論文は、妊娠20週での胎児頭部の大きさの2つのパラメータ(HC、TCD)についてVitrolife社がCook社より有意に大きいことを示しています。

2012.11.8「☆妊娠中の栄養と出生児の健康:Barker仮説、DOHaD」に記載したように、妊娠中の低栄養状態が生後の生活習慣病の発症に関係するという概念、Barker仮説あるいはDOHaD (developmental origins of health and diseases)があります。本論文は、着床前の胚の段階から培養液による胎児発育への影響が考えられるとするものであり、胎児発育における培養環境の重要性を示唆しています。

NT(nuchal translucency):胎児超音波で頚部の後ろに見えるスペースのことを言います。NT計測値が大きいほど胎児染色体異常の確率が高くなることが知られています。妊娠10~14週で測定します。
MoM(multiples of median):中央値の何倍の値かを意味するもので、平均的な数値からどの程度離れているかを示すひとつの指標です。