☆自転車のサドルは男性不妊の一因 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

男性の睾丸(精巣)が身体の外側にあるのは、精巣の温度を体温よりも下げるためです。別の見方をすれば、外傷を受けやすい臓器といえます。今回紹介する論文群は、自転車のサドルによる圧迫で、生殖機能が低下することを示しています。発表された年代順に記します。

Clin Exp Neurol 1991; 28: 191
要約:2名の外陰神経麻痺の症例報告です。2名とも男性の自転車競技のアスリートでした。1名は、長時間のサイクリング後に、たびたびペニスと陰嚢の感覚麻痺を起こしていました。もう1名は、ペニスの感覚麻痺、射精時の違和感、排尿障害、排便障害をきたしていました。両者ともサドルの位置と自転車の乗り方を変えることで、その感覚麻痺は改善しました。競技用の自転車に長時間乗る男性は、股間が圧迫されて、外陰神経麻痺を生じることがあり、注意が必要です。

Int J Impot Res 2002; 14: 513
要約:20~26歳の男性ボランティア20名に、立位と座位、幅が狭いサドル(14cm)と広いサドル(26cm)で自転車に5分乗っていただき、ペニスの血流を測定しました。まず、立位→座位で自転車に腰掛けたただけで、幅が広いサドル(1.6→1.5)も幅が狭いサドル(1.7→1.0)も座位でペニスの血流が低下し、幅が狭いサドルでより顕著でした。自転車に5分乗った後も、幅が広いサドル(2.1→1.9)も幅が狭いサドル(2.2→1.3)も座位でペニスの血流が低下し、幅が狭いサドルでより顕著でした。

J Sex Med 2008; 5: 1932
要約:警察官の中で自転車に常時乗るといった仕事スタイルを取る90名の男性に、ノーズのないサドルの自転車に乗ってもらい、勃起に関する質問票の記入と股間への圧力を測定しました。半年後に再調査したところ3名は元のサドルの自転車に、それ以外の87名はノーズのないサドルの自転車に乗っていました。ノーズのないサドルでは、股間への圧力が66%減弱しており、ペニスの感覚や勃起力が有意に改善していました。男性器の知覚障害のない方は、最初は27%でしたが、半年後には82%に改善していました。

Urol Int 2009; 82: 8
要約:サイクリングが趣味の男女11名ずつに様々なタイプのサドル(穴あきか否か、ノーズの部分が上向きか前向きか)に乗ってもらい、股間への圧力を測定しました。女性ではサドルの種類による股間への圧力に違いを認めませんでしたが、男性では、ノーズの部分が前向きで穴あきのタイプのサドルで股間への圧力が有意に増加していました。

解説:1978年に自転車のサドルによって精巣の捻転が生じたという報告がLancet誌にあります。神経麻痺の報告はそれから10年以上経過した1991年(上記の最初の論文)で、この報告以来、サドルの圧迫によって、男性器の知覚障害や性機能障害が生じることが知られるようになりました。勃起不全(ED)になる方もおり、これをサイクリングEDと呼ぶようです。サドルの形状や乗り方によってこれらは改善されますが、ノーズがないのが一番のようです。この現象について、日本ではまだ認知度が低いかもしれません。自転車通勤の方、趣味でサイクリングをされる方、自転車競技のアスリートの方はご注意下さい。