EU諸国の体外受精の公的補助と実施件数 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

まさに、「世界の体外受精」のテーマにふさわしい論文が今月発表されましたので、ご紹介します。

Hum Reprod 2013; 28: 666
要約:EU諸国13ヶ国における体外受精の件数、実施条件、公的補助等の条件について2009年のデータを調査しました。以下、体外受精の件数の多い順に並べてあります(人口100万人あたりの実施件数)。

            一般的な体外受精実施の条件
国名     件数  年齢   適応  対象  同性愛
ベルギー   2687  <45     ~   ~   可
デンマーク  2450  <45     ~   ~   可
ギリシャ   1826  <50    ~   ~   可
スゥエーデン 1751 生殖年齢 医学的 夫婦   可
フィンランド 1698   ~    ~   ~   可
オランダ   1290  <45  医学的  ~    可
スペイン   1175   ~    ~   ~   可
フランス   1061 生殖年齢 医学的 夫婦   不可
イギリス    825   ~    ~   ~   可
イタリア    798 生殖年齢 医学的 夫婦   不可
ドイツ     780  ~   医学的  夫婦  不可
オーストリア  779  ~   医学的  夫婦  不可
ポルトガル   525  ~   医学的  夫婦  不可

                公費負担の範囲
国名     件数 カバー 回数 女性年齢 男性年齢 適応  
ベルギー   2687 全部  6 <40   ~   医学的
デンマーク  2450  一部   3 <40   ~   
ギリシャ   1826  一部  ~ <50  ~   医学的
スゥエーデン 1751 全部 ~生殖年齢 ~    医学的
フィンランド 1698 一部  ~ ~   ~    
オランダ   1290 全部  3 <45  ~   医学的
スペイン   1175 一部 3 生殖年齢 ~    医学的
フランス   1061 全部  4 <43  ~   医学的
イギリス    825 一部  ~ <40  ~    医学的
イタリア    798 一部  ~ 生殖年齢 ~    医学的
ドイツ     780 一部  3 <40  <50   医学的 
オーストリア  779 一部  4 <40  <50   医学的
ポルトガル   525 一部  ~  ~   ~    医学的 

            ドナーの体外受精
国名     件数  精子•卵子   胚   匿名
ベルギー   2687    可     可    可
デンマーク  2450    可    不可    可
ギリシャ   1826    可     可    可
スゥエーデン 1751   可    不可    不可
フィンランド 1698   可     可    不可
オランダ   1290    可     可    不可 
スペイン   1175   可     可    可
フランス   1061   可     可    可
イギリス    825   可     可    不可 
イタリア    798   不可   不可   不可
ドイツ     780  精子のみ可 不可   不可
オーストリア  779   不可   不可   不可
ポルトガル   525   可     可    可

解説:このような調査は今までありませんでしたので、今回が初めてのものです。予想に反し、体外受精の件数は公的補助の条件やドナーの体外受精の許可条件とはほとんど関係ありません同性愛者も含めた対象者の制限がないことや、医学的適応でない場合にも許容するなど、むしろ一般的な体外受精実施の条件の緩さと関連しています。たとえば最も件数の少ないポルトガルは、公費負担の条件も緩く、ドナーも全てOKですが、対象者が夫婦のみで同性愛不可というしばりがあります。イギリスは条件はよいのですが、実施施設数が少ないので件数が少ないと考えられます(公費負担の場合は順番待ちが相当長いようでもあります)。スゥエーデン、オランダ、フランスは、一般的な体外受精実施の条件は厳しいですが、公費で全額カバーされます。このようにみると、件数が上位の国にはそれなりの理由があります。

一方、日本の実施件数は、2010年のデータで、人口128,057,352人に対して242,160周期ですので、人口100万人に対し1891件となります(ギリシャと同じくらいです)。日本はかなり多くの体外受精を実施している国ということになりますが、EU諸国に比べると条件はあまり良くありません。これは、EU諸国と比べ、日本の費用が安い(EUは日本の約1.5倍)からではないかと考えられます。他国の条件は、将来の日本の実施条件を考える際の参考になります。日本人気質からすると、将来はおそらくドイツやオーストリアに似た条件になるのではないでしょうか。

最後にもう一点、ドナーの匿名を許可している国が約半数(6/13 = 46%)もあったのは意外です。「子どもの出自を知る権利」については、多くの議論が必要だと思います。