宗教による生殖医療のルール:イスラム教 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

体外受精などの生殖医療におけるルールは各国で異なりますが、その根拠となるのは宗教(観)にあります。そこで、宗教による生殖医療のルールについて、何回かに分けてご紹介しようと思います。初回は、イスラム教です。

イスラム教はアラビア語を母語とするアラブ人の間で生まれた一神教です。イスラム教徒(ムスリム)は約11億人であり、世界で2番目に多くの信者を持つ宗教です。イスラム教の教典(聖典)は有名なクルアーン(コーラン)です。イスラムの教えに基づく社会生活の指針を示すムフティーが、宗教的意見書(ファトワー)を出しています。

World In Vitro Fertilization Units 2012
イスラム教スンニ派のファトワー(1980年~現在)
許可
体外受精(夫精子のみ可)
人工授精(夫精子のみ可)
胚凍結(ただし、婚姻関係の間に全ての胚を使いきること)
減胎(母体の健康が損なわれる場合のみ)


禁止
ドナー精子
ドナー卵子
ドナー卵子で生まれた子供の養子縁組
未婚の体外受精
代理母
精子バンク


イスラム教としては少数派であるシーア派はスンニ派のファトワーを支持してます。しかし、イランのAyatollah Ali Hussein Khamaneiがドナーを許可した(養子として)ため姓をどうするかなどの議論になっています。

解説:1978年に世界で初めての体外受精による児の誕生があってから、わずか2年で上記の指針が発表されています。日本人の多くはいわゆる無宗教ですので、宗教的バックグラウンドがありません。ですから、法律で指針を作らなければ、学会のガイドラインという自主規制という程度に留まっています。昔作られた法律(とくに民法)が現代にそぐわないことは、誰でも認識していると思いますが、これが改訂されない限り中途半端な状態のままだと思います。