胚移植(ET)の理想的な位置は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

胚移植(ET)の理想的な位置はどこでしょうか。今回ご紹介する論文は、子宮底部から10~20mm手前がよいというものです。

Am J Anat 1956; 98: 435
要約:妊娠初期に子宮摘出術を行った34名の方の着床部位を調べたところ、子宮内腔の上半分の後壁に多く着床していました。

Hum Reprod 2002; 17: 341
要約:180名のETをランダムに3群に分け、子宮底部より10mm、15mm、20mm手前にETを行い、前方視的に妊娠率を検討しました。妊娠率はそれぞれ20.6%、31.3%、33.3%であり、10mm手前の群で有意に低い結果でした。

Fertil Steril 2004; 81: 51
要約:669名の方のETの位置と妊娠率を後方視的に検討しました。子宮底部より奥(<0mm)、丁度底部(0mm)、1~5mm手前、5mm以上手前にETを行った場合の妊娠率は、それぞれ11.2%、28.6%、47.0%、48.6%でした。同様に子宮外妊娠率は、それぞれ11.5%、7.4%、5.2%、3.2%でした。

Fertil Steril 2005; 84: 500
要約:両側卵管角と内子宮口の中間点を着床率最大部位(MIP)と考え、3D/4Dエコーを用いて、1222名のETを16名の医師で行いました。妊娠率は平均36.7%で、2名の医師は65%に達していました。

RBMOnline 2007; 14: 611
要約:3件の文献のメタアナリシスの結果、子宮底部より10mm手前にETすると、20mm手前にETするより妊娠率が0.43倍に有意に低下していました。ただし、症例数が少ないため今後の検討が必要です。

解説:子宮内腔の大きさは、一辺が約3~4cmの三角形ですから、内子宮口から子宮底部までの距離は2.5~3.5cmになります。上記の論文のデータからは、少なくとも子宮底部付近のETは望ましくない(妊娠率低下、子宮外妊娠率増加)ことがわかります。ETの位置は、中央部からやや奥程度がよいと考えられます。