5月12日(土)、京都の相国寺承天閣美術館にて6月3日まで開催される「若冲展~釈迦三尊像と動植綵絵(どうしょくさいえ)120年ぶりの再会」 を観てきました。
この展覧会、正式には今日13日からの開催なのですが、今回は美術展史上おそらく初の試みであろうというブロガーによる特別先行プレビューという企画に応募したところ、数多くのブログの中から当ブログが採用された15のうちの一つとして選ばれ、一日早い鑑賞という機会に恵まれました。
(今回の成果いかんでは、今後も同様の企画が検討される可能性もあるかもしれないので、プレッシャーも感じつつ・・いつもどおりの「旬便り・・」のスタンスも失わずにご紹介したいと思います。)
指定された集合時刻の午後12時半、全国からやってきたブロガーたちは皆、期待と興奮を抑えきれない様子で目がとてもイキイキと輝いていて・・担当者の方のあとについて会場の中に入りました。
展示を観る前に2階の会議室に移動し鑑賞上の注意事項、特に写真撮影についての説明(今回のブログの写真は全て特別な許可を頂いて撮影しています。)があり、予定の1時になったということではやる気持ちを抑えつつ展示会場へ足を踏み入れました。
入って奥の正面に並ぶ「釈迦三尊像」を取り囲むように、左右に15幅ずつ・・全30幅の「動植綵絵」が勢揃いした様はまさに圧巻・・思わず立ち尽くしてしまいました。
(「釈迦三尊像」は相国寺所蔵品ですが、「動植綵絵」は宮内庁所蔵品のため、保管上の理由からも一堂に会するという機会はもう2度とないかもしれません。)
会場内では学芸員の村田隆志氏による解説を聞かせていただくことが出来たのですが、驚くべきことにこの展示室、実はいつの日かこうやって33幅が一同に揃うときのために設計されたためバランスよく並べることが出来るのだとか・・
120年の時を経て、再び巡り会うための部屋を創っておくというその壮大な思いがこうして実を結びました。
村田氏からは、その他にも絵の見所なども聞かせていただくことが出来たのですが、その中で特に心に残ったのが「多数の中の異」というキーワード・・
沢山の動植物が描かれている「動植綵絵」の中に何点かそのキーワードを頭に入れた上で観ていくと若冲の遊び心(?)というのが垣間見えてより身近に感じるのではないでしょうか?
たとえば、「秋塘群雀図」の中に描かれている一羽だけ白い羽根をもつ雀・・
たとえば、「薔薇小禽図」の中に描かれている一輪だけ向こうを向いている花・・
その他にもいろいろとありますので会場で鑑賞される際は、是非とも探してみてください。
(見つかった瞬間、「やったぁ」って叫んだりしたらチョット恥ずかしいかも・・)
ところで、今展の図録(2,500円)では冒頭部分に識者3氏による本展に向けての座談会が掲載されているのですが、その中で3氏がそれぞれに「動植綵絵・マイベストスリー」をあげておられます。
それに倣って私も(あえて)「動植綵絵・マイベストスリー」をあげるとすると・・
①「梅花皓月図」・・30幅中唯一動物が描かれず(蛹のようなものはあります)に月が描かれているのですが、画面をじっと眺めているうちに幽玄な月の灯りに身体が軽くなっていくような不思議な感覚を覚えました。
②「群鶏図」・・若冲といえば「鶏」ともいえる得意な画題ですが、本作では13羽の鶏それぞれが自由に振る舞いつつ、適度な緊張感を保っているバランス感覚の素晴らしさに見入ってしまいました。
③「老松白鶏図」・・現代では松の上の白い鳥といえば「鶴」が定番なので、普段見慣れているものと違う白い鳥に新鮮な感覚を覚えました。(サイズからいうと鶏の方が無理はないような気はしますが・・)
それにしても・・
30幅の内、日本を代表するといえる花「桜」が描かれたものがないのは一体どうしてでしょう??
江戸の頃は今ほど「桜」を愛でる風習がなかったのかもしれないなぁ・・
<とても恵まれた環境の中、鑑賞させていただきました。>
ここで、今回この30幅を観て表具師として感じたことを記しておきます。
それは、30の画題の全てに合う同じ仕立ての表装をしつらえた表具師の感性の素晴らしさ・・
普段、私も軸装をさせていただいておりますが、同じ裂を使う対幅や3幅対などの場合は二つ以上の画面の調和を乱さずに作品自体を生かす仕立てはより高度な感性が要求されるので、30幅全てを生かしている今回の表具を観させていただけたことは大変有意義なこととなりました。
(掛かり具合も大変素晴らしく、反ったり折れたりしていないため非常に観やすかったです。)
その後、舞台を第1会場に移しての鑑賞が続きました。
本来のコースだと、まず最初にこの第1会場で襖絵や水墨画などの作品を鑑賞したあとに第2会場へと順路が設定されているので、鑑賞される方は「動植綵絵」を早く観たいと気が逸ることとは思いますが、展示コースは一方通行に設定されているとのことなので、うっかり見過ごしてしまうと「またあとで・・」が効かないので此処はじっくりと墨で描かれた素朴な世界の中に見える確かな存在感を楽しんでいただくことをお勧めします。
村田氏の解説によると、この相国寺、天明の大火(1788年)の折にその90%を焼失したということなのですが、「釈迦三尊像と動植綵絵」が納められていた南蔵は奇跡的に類焼を免れたことで今回の展示が叶ったのだとか・・
展示場にはそのときに同じく焼け残った「徳川家康直筆」の「棟札」が公開されているのでその火の凄まじさを感じることが出来るかもしれません。
<水墨・墨彩の軸装が並んでいます・・図録だとカットされている「表装」もお見せします。>
今回の「若冲展」、序盤でも記載しましたが、「釈迦三尊像と動植綵絵」全33福が一同に揃い展観されるということは二度とないかもしれない貴重な機会といえると思います。
江戸の時代から守り伝えられてきた至宝を平成の世に観ることの出来る幸運を逃すことなく、是非ともおでかけください。
追記・・鑑賞後、お時間がありましたら、相国寺墓地内にある「伊藤若冲の墓(遺髪が納められています)」を訪れてみてください。足利義政、藤原定家と並んで静かに眠る江戸の偉大なる絵師に手を合わせると(いい意味での)何かが感じられるかも・・
*尚、今回は特別プレビューということで、許可を頂いて撮影、及び掲載させていただいていることを重ねて付記させていただくと共に、貴重なる機会を与えていただいた関係者の方、一緒に鑑賞させていただいたブロガーたちに心からお礼申し上げたいと思います・・ほんとうに、ありがとうございました。
「若冲展~釈迦三尊像と動植綵絵(どうしょくさいえ)120年ぶりの再会」
↑混雑状況(目安)なども確認できますので是非ごらんください。
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