胸式呼吸が意外と大事なワケ 〜オートパイロットで「しなやかマッチョ」になりたい!〜 | 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ

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僕らの世代は「腹式呼吸をしましょう!」と教えられた世代のように思います(まあ何となくですが)。

腹式呼吸はきわめて重要ですが、胸式呼吸も重要です。腹式呼吸を教えられるときに、つい胸式呼吸のアンチテーゼとして腹式呼吸が教えられたりします。

「胸式呼吸ではなく、腹式呼吸をしましょう!」と。not 胸式呼吸、but 腹式呼吸ですw
not only~but alsoならまだいいのですが、否定を含みます。まあ、腹式呼吸は否定して良いと僕は思います。腹式呼吸は緊急時に一瞬で酸素(空気)を取り込みたいときにのみ使えば良いかと思います。

身体の修練を積まれている方、トレーニングを欠かさない方や、かつてハードにトレーニングしていた人は、腹式呼吸ができます。それを普段にやっているかどうかはともかくとして、きちんと腹式呼吸を覚えており、身体に入っています(腹式呼吸はどうしても構造的に日常的にはやりづらいところがあります)。

もちろん一般の人の多くはどうやって呼吸をしているのだろうと思うほど、胸式でも腹式でもありません。端的に言えば、呼吸が浅いのですが、我々のうちの多くは別にウルトラマラソンを完走するわけでも、トライアスロンの選手でもありません。野山を駆け回る必要もないので、呼吸が浅くても間に合ってしまうのです。もちろん浅いことが良いわけではないのですが、なんとかなってしまうのです。

ただ少し運動しようとすると、呼吸に注目せざるを得ません。そこで、腹式呼吸が注目されればされるほど、胸式呼吸は前世紀の遺物のような扱いになりがちです。

しかし、胸式呼吸はきわめて重要です。


胸式呼吸というのは一般のイメージにあるような、肩で息をするということとは異なります。
胸郭をふくらませたり、しぼめたりする運動によって、呼吸を助けることです。実際は肋骨をふくらませたり、つぶしたりします。肋骨はぐるりと一周していますので、胸だけではなく、肩甲骨側もふくらみます。



ちなみに深い変性意識に入った時に、呼吸が深くなり、肋骨が柔らかく動くようになります。
逆に深い変性意識にどうしても入れないという人は、肋骨が硬くて、深い呼吸に移行できないことがあります。深い変性意識に入って、呼吸が深くなろうとすると、肋骨が硬くて呼吸を阻害するので、息が止まるような恐怖に魘われるからです。溺れているようなものです。ですので、その場合は深い変性意識の入り口で引き返さざるを得ません。

ですので、胸式呼吸というのはシンプルに肋骨を拡張したり、縮小したりすれば良いということになります。

息を吸って胸が膨らむのであれば、吐き切って胸を完全にクシャッとつぶしてしまいましょう。最初は手を使って誘導するのが効果的です。吐ききることができると、大量に吸うことができます。

また背中側にも息が入り膨らんでいることを確認しましょう。胸を広げようとして、肩甲骨を締めてしまうのでは、本末転倒です。胸も開き、背中も開くのがポイントです。


*背中側も膨らませます。


とは言え、これが全くできない人が多いのも事実です。

胸が動かないのです。正確には肋骨が拡大したり縮小したりしないのです。

鉄の処女を思わせるような、硬いケージ(鳥かご)として胸郭(rib cage)が存在します。胸郭をガチガチに守っています。


*いわゆる拷問道具の中で最も印象深いのはこの「鉄の処女」です。処刑や拷問が隠されるようになったのは、人道的ではないという理由ではなく、むしろその方が効果的であるからです。そのあたりが赤裸々に描かれているのがミッシェル・フーコーの「監獄の誕生」でしょう。


ですので、胸が動かないままで呼吸をします。かなり苦しい状態ですが、苦しいと認識できるのは苦しくない状態が比較群としてあるときだけです。すなわち、ずっと同じ状態が何年も続いているとしたら、苦しいと感じることすらできません。そして、この状態で深い変性意識に入るのは上記の理由で困難であることは知っておいたほうがいいでしょう。

ちなみにこの鉄の処女のような硬い胸郭をゆるめるのはきわめて困難です(胸郭を。「呼吸法で簡単にゆるみます」というような甘いものでは毛頭なく、たとえば発勁を用いたり、肋骨に対する特殊な整体法と呼吸法を用いたりして、強制的にゆるめます(ちなみに肋骨は細い骨で、非常に折れやすいので、無理に施術をするのは危険です)。もしセルフ・ヒーリングとして行うのであれば、中丹田などが効果的です。第四チャクラ、中丹田などでゆるめます。ワキをゆるめることを忘れずに。


硬い胸郭と言っても、骨自体の硬さが構造物全体の硬さに関係しているわけではありません。骨はもちろん硬いものです(骨密度の低下とか、骨粗鬆症をここでは考慮しません)。しかし肋骨は関節があり、バラバラと動きます。ですから構造物としては柔らかく動きます。その柔らかい構造物を固めてしまっているのは筋肉です。もちろん筋肉は勝手に肋骨を固めないので、意識なり意志がオーダー(命令)を出して、肋骨を固めています。

心理学的というか、文学的に比喩的に言えば、虚勢をはるようなとき、心が凍りついたときなどは、明確に胸郭は固まります。端的に言えば、緊張するということです。緊張によって防衛しようとするのです。それが一時的であれば良いのですが、永続的になると鉄の処女のような硬い胸郭の出来上がりです。

硬い胸郭にするためには、一見すると日々のトレーニングが必要な気がします。割れた腹筋のように、日々鍛えて鍛えて、そして実現するような気がします。実際にそういう場合もありますが、むしろもっと単純です。たとえば、大きな衝撃を受けて、それがあまりに強い情動と結びつけば、その情動と筋肉の緊張は長期記憶化します。なぜなら強い情動を喚起した現象は高い重要性を持つと自我が(もしくは脳が)認識するからです。すると脳はその記憶を何度もリフレインします。リフレインする度に、強い情動が引き起こされれば、より記憶は強化されます。

たとえば、ひどい悪口を言われて、ひどく傷ついたようなケースを想定します。ドリームキラーのひどい発言でも良いでしょう。もしくは命を狙われたような体験でも構いません。その瞬間に強い情動が引き起こされますが、それを我々の脳は何度も思い出します。思い出す度に風化し、揮発していく記憶ならば良いのですが(ほとんどの記憶はそうでしょうし)、強化される記憶というのがあります。脚色され、派手になっていきます。毎回、強い情動が掻き立てられれば、記憶は必然的に強化されます。そのときに、ショックを受けたり、恐怖を受けた記憶と共に、そのときの身体状況(恐怖により凍りつく身体や、怒りに震える身体)が再現されます。

すると実際に何も努力せずに、胸は鉄の処女のように固まっていきます。

1.強烈な情動をかきたてる記憶を繰り返し再現

2.記憶により、強い情動の生成、

3.強い情動と共に身体状態の再生

4.それが結果的に筋トレとして機能

というカラクリです。というか、これらは因果関係のように書いていますが、同時に起こります。記憶の再現と情動は同時であり、同じものです。情動が発火した時にはそれに見合う身体状態が再生されます。これも一方向ではなく、ある身体状態を再現すると記憶が再現することもよく知られています。
胸を張って、私は落ち込んでいると言っても、落ち込めず、うなだれて身体を落として、私は元気だと言っても、元気にはなれません。

まあ、いずれにせよ、筋トレが勝手に、自動的に行われるのです。


逆に言えば、これをうまく利用すれば、「しなやかマッチョ」も夢ではないのです。
オートパイロットの筋トレを我々の「しなやかマッチョ」実現のために使うということです。


まあ、それはともかく、胸式呼吸は重要です。

胸式呼吸は胸郭の筋トレとして機能します。本来の筋トレというのは、意識を張り巡らせ、コントロール可能にするということです。コントロール可能というのは、弛緩と緊張を意のままにできるということです。そのためには、常時ゆらがせる必要があります。弛緩したり緊張したりと筋肉を揺らがせ続けるということです。それをほぼ自動的にやってくれるのが胸式呼吸です。

腹式呼吸と胸式呼吸は対立する概念ではないので、ぜひ胸式呼吸を意識して訓練してください。

蛇足ながら、僕は逆腹式呼吸をオススメします。なぜかと言えば、本稿の文脈で言えば、オートパイロットな筋トレという意味での胸式呼吸を加速させるからです。