トクヴィルはベイズであるということについて少々(少々というわりには長いですorz) | 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ

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結論はシンプルです。

「トクヴィルとはベイズ推定だなぁ」ということです。

トクヴィルが目指したもの、トクヴィルの主張を数学で形式的に記述すればベイズ推定であるということが本稿の主題です。

ただトクヴィルって誰?ベイズって何?だと意味不明かもしれないので、少し説明をと思ったら、少し長くなってしまいました。


「アメリカのデモクラシー」を著したトクヴィルについて、ライフネット生命保険の出口さんはこう書いています。僭越ながら、秀逸なまとめだと僕は思いました。

要約しつつ、引用を交えます。

世界には200近い国がありますが、その中で特異で例外的な国は、アメリカとフランスであろう、と(アメリカは普通の国というより特異な国なのに、日本はアメリカを普通の国と考えてしまうと出口さんも書かれています)。

(引用開始)
この国(アメリカ:引用者注)ができつつあったときに、トクヴィルというフランスの貴族がアメリカを訪れて、旧大陸(ヨーロッパ)とのあまりの違いに驚き、『アメリカのデモクラシー』という名著を残しました。一冊の本に書き残さざるを得なかったほど、旧大陸の教育を受けた貴族からしてみれば、アメリカという国は特異な国だったのです。その理由は、歴史や伝統などといった拠り所をどこにも見出すことができなかったので、最終的には人間の理性とか、国の憲法をベースに置いて考えるしか、この国の成り立ちを理解することはできなかった、そのことをトクヴィルは書いています。(出口治明 p.276)
(引用終了)

そのアメリカと戦ったのが英国。英国の敵はフランス。というわけで、敵の敵は味方というわけで、フランスはアメリカを助けますが(自由の女神もフランスからの贈り物。団体がフリーメイソンでも何でもw石工の集団が自分たちの仕事をアピールする良い機会と考えるのも分かりますし)、その過程でフランスはアメリカに影響を受け、それがフランス革命につながる、と出口さんは言います。


*手を振っているのはナンシー・レーガン

ですから、その意味で合衆国とフランスは非常に特異な国なのです。


という国の成り立ちはともかくとして、トクヴィルです。

(引用開始)
 国をつくるのに、よるべとする歴史のないアメリカは、憲法という理念を礎に建国しました。その影響がフランス革命に、行きすぎた平等性や人工国家性は持ち込むことになりました。
 ところが、このフランス革命を苦々しく見ていた英国の学者がいました。エドマンド・バークです。バーク、そして『アメリカのデモクラシー』を著したフランスのトクヴィルは、近代的な「保守主義」という考え方の元祖ともいうべき人物です。
(出口 pp.282-283)
(引用中断)

保守主義というとあまり良いイメージが無いかもしれませんが、カラクリはシンプルです。

単純に、俺達ってそんなに頭良かったっけ?

理性ってすごいの?

というまあ真っ当な疑問から発するものです。

建国の精神に対する反動としての懐疑主義」(p.283)です。

我々の印象で言えば、19世紀の啓蒙の時代があり、20世紀の科学万歳の時代があって、宴の後に、散らかったパーティー会場を見ながら、俺達ってそんなに賢い?俺達の理性ってそんなに過信できるっけ?俺達ってバカなんじゃない?ということかと思います(よけいに分かりにくいかも...)。

出口さんいわく、バークやトクヴィルの保守主義とは

(引用開始)
「人間は賢くない。頭で考えることはそれほど役に立たない。何を信じるかと言えば、トライ・アンド・エラーでやってきた経験しかない。長い間、人々がまあこれでいいじゃないかと社会に週間として定着してきたものしか、信じることができない」
こういう経験主義を立脚点として、次のように考えます。
「そうであれば、これまでの慣習を少しずつ改良していけば世の中はよくなる。要するに、これまでやってきたことでうまくいっていることは変えてはいけない。まずいことが起こったら、そこだけを直せばいいだろう」
(p.283)
(引用終了)

まさに保守という感じがします。
ちなみに、出口さんいわく、日本の保守主義はヨーロッパの基準ではクレージー(過激派)に近いそうです。「真の保守主義には、イデオロギーがない」(p.284)というのは押さえておくべきかと思います。


というわけで、トクヴィルです。


*フランスの貴族です。綺麗な顔ですが、フランス革命の際に親戚や家族を殺されています。


トクヴィルの紹介のためにも、面白いと思う部分を少し引用します。

文明世界で、合衆国ほど人が哲学に関心を持たぬ国はないと思う。

簡潔でかつエスプリが聞いているのですが、とは言え、合衆国に哲学が無いと言っているわけではありません。

こんな風にトクヴィルは言います。

アメリカはだからデカルトの教えを人が学ぶこと最も少なく、これに従うことは最も多い国の1つである。これは驚くにあたらない。


方法的懐疑の末に、Cogito ergo sumに至り、「自らの手で、自分自身の中にのみ理由を求め」たのはデカルトですが、合衆国はひとりひとりがそのような哲学を持っているということです。


伝統は1つの情報に過ぎぬとみなし、今ある事実は他のよりよいやり方をとるための役に立つ研究材料としか考えない。自らの手で、自分自身の中にのみ事物の理由を求め、手段に拘泥せず結果に向かい、形式を超えて根底に迫る。これらが、アメリカ人の哲学の方法と以下に呼ぶものの主要な特徴である。

「伝統は1つの情報に過ぎぬとみなし、今ある事実は他のよりよいやり方をとるための役に立つ研究材料としか考えない」とは、翻って我々自身の姿とダブらないでしょうか?

日本において、高等教育を受ける人の多くが合衆国に感染しています。影響を受けます。
ヨーロッパではなく(ヨーロッパには憧れるのですが、伝統の厚い壁に深く絶望するだけです)、合衆国に。

独立したばかりのアメリカに衝撃を受けたフランス貴族の感想文が、我々の現実を射抜きます。

なぜか?

トクヴィルはこう書きます。

(引用開始)
最後に、多くの読者がこの本の根本的欠陥とみなすであろうことを自ら指摘しておく。本書は厳密に言って何人にも追従するものではない。私はこれを著すにあたって、いかなる党派に仕えるつもりもなく、どんな党派と闘う気もなかった。もろもろの党派と別の見方をするというより、ずっと先を見ようとしたのである。彼らが明日のことにかまけるのに対して、私は思いを未来に馳せたかったのである。(トクヴィル1巻上p.30-31)
(引用終了)

彼らが明日のことにかまけるのに対して、私は思いを未来に馳せたかった」からこそ(そしてそれに成功したからこそ)、200年前の紀行文ではなく、現在に至るまで我々に問題意識を投げかけます。

トクヴィルについては書きたいことは山ほどあるのですが、アメリカ人の哲学についてさらっとまとめて、次へ行きます。

とは言え、トクヴィルの名調子以上の情報圧縮がありそうにもないので、まず以下に引用します。

(引用開始)
 一人の人間の知性が他の人間の知性に働きかける作用について言えば、市民がほとんど同じになって誰もが親しく付き合うような国、争い難い偉大さや優越性を誰にも認めず、真理のもっとも明白で身近な源泉として絶えず自分自身の理性に立ち返る国にあっては、そのような作用は必然的に強く限定される。このとき、ある特定の人間への信頼が失われるだけでなく、およそ他人の言葉を信用しようという気がなくなる。
 誰もがだから固く自分の殻に閉じこもり、そこから世の中を判断しようとする。
 判断基準を自分の中にしか求めないというアメリカ人の習慣は彼らの精神をまた別の習性に導く。
 彼らは実生活で出会う小さな困難をことごとく人の援(たす)けを借りずに解決しているので、そこから容易に、世界のすべては説明可能であり、知性の限界を超えるものは何もないと結論することになる。
 こうして、彼らはとかく自分の理解し得ないものの存在を否定してしまう。不可思議なるものに滅多に信をおかず、超自然的なものをほとんど頑として受け付けないのはこのためである。
 自分自身の目で確かめたことしか頼りにしない習慣なので、関心のある対象をはっきり見ることを好む。したがって、できる限り対象を周囲から切り離し、対象から自分を隔てているものをすべて取り除き、より近くから白日の下に見ようとする。このような精神傾向はやがて形式の無視に導き、彼らはこれを自分と真理とを隔てる無益で不便な皮膜とみなすようになる。
 アメリカ人はだから彼らの哲学の方法を書物に求める必要がなかった。自分自身の中に発見したのである。

(引用終了)

ちなみにあわてて付け加えると、これは合衆国だけではなくかつてヨーロッパでも起きたとトクヴィルは言っています。

また「超自然的なものをほとんど頑として受け付けない」とは言いつつ、合衆国のスピリチュアリズムについても言及しています。端的には、「現世の財を得る欲求はアメリカ人を支配する情熱だが、それが緩むこともあって、そのときの彼らの魂は突如として物欲の縛りを立ち、一気に天に向かって立ち消えようとするかに見える。」(トクヴィル2巻上p.230)

また、「現世の財を得る欲求」の楽観的になれない合衆国の影についても鮮やかに記述しています。「合衆国の住民のこの世の財に執着すること、まるで死ぬはずがないと確信しているかの如くであり、目前に現れる財を瞬時に奪う早さは、あたかもこれを享受する前に死んでしまうのではないかといつも恐れているように見える。彼は何でも手にとるが、大事に抱きしめたりせず、すぐに放り出して新たな楽しみを求める」(トクヴィル2巻上 p.234)

このあともトクヴィルの名調子は続きます。
マンガ的ですが、事実そのものです。
我々の姿と重ね合わせると面白いかもしれません。

(引用開始)
合衆国では、人は老後を過ごすために入念に家を建て、しかも屋根を葺いているうちにこれを売却してしまう。果樹園をつくり、もう少しで果実を味わえるというときに、貸しに出す。畑を開梱して、収穫を刈り取るのは他人に任せる。専門職に就いてはすぐに辞める。ある土地に落ち着いてもすぐに気が変わって別の場所で新たな生き方を求める。(略)ついに死が訪れて、この歩みを止めるまで、アメリカ人は、常に逃げていく完全なる至福を求めてこの無駄な追求を飽きることなく続ける。(引用終了)(トクヴィル二巻上 p.234)

トクヴィルについて書いていくと終わらないので、サクッとまとめます。



トクヴィルの問題提起はシンプルです。

われわれは、祖先の社会状態から離れ、その制度、観念、習俗を一切合財投げ捨てて、それに代わる何を得たのであろうか。」(トクヴィル1巻上 p.21)

結論はシンプルで、何も得ていないということでしょう(多分)。

引用を続けます。

(引用開始)
われわれは、祖先の社会状態から離れ、その制度、観念、習俗を一切合財投げ捨てて、それに代わる何を得たのであろうか。
 王権の威信は消え去ったが、法の尊厳がそれに取って代わったわけではない。今日、人民は権威を軽蔑しながら、これを恐れている。そして、その恐怖によって彼らは、かつて権威を尊重し、敬愛することで得ていた以上のものを失っている。(略)
 つまり、ときに抑圧的ではあっても、しばしば社会を安定させていた少数の市民の力が消え去り、いまでは誰もが無力になってしまったのである。(略)
 社会は静かである。しかしそれは、社会が力と安定に自信をもっているからでは決してなく、自己の弱さと欠陥を意識しているからである。何かを試みて死んでしまいはしないかと恐れるのだ。誰もが欠陥に気づいているが、勇気をもって改善に乗り出すだけの力をもつ者はいない。欲望も後悔も苦しみも悦びもあるが、それらの感情は何一つ目に見える成果をあげず、老人の情熱にも似て、何の力にもならない。
 このようにわれわれは、過去の状態の利点を捨てながら、現在の状態がもたらすはずの有用なものを得ていない。われわれは貴族社会を破壊した。しかし、往時の廃墟に足を止めて悦に入り、そのままいつまでもそこにいたいかのようである。
(トクヴィル1巻上 pp.21-22)
(引用終了)

僕は個人的には「老人の情熱にも似て、何の力にもならない」という一節が好きです。
ちなみにトクヴィルも再三繰り返していますが、復古でもデモクラシーへの攻撃でもありません。分析です。


このままトクヴィルだけで終わってしまいそうなので、急カーブでベイズです。


ベイズとはベイズ推定のベイズですが、ベイズというよりは、むしろ歴史的にはラプラスの法則と言うべきものでしょう(クリプキ様あたりがペアノの公理と同じくそう突っ込みそうです)。

本稿の主題はシンプルです。

「これまでの慣習を少しずつ改良していけば世の中はよくなる。要するに、これまでやってきたことでうまくいっていることは変えてはいけない。まずいことが起こったら、そこだけを直せばいいだろう」

というトクヴィルやバークたちの保守主義というのは、端的に言えば「経験から学ぶ」ということです。

ケインズは

事実が変わったら、

私なら意見を変えますが。

あなたはどうなさいますか?


と語ったそうですが、これこそがトクヴィルたちの立場です(ちょっと無理矢理ですが)。

トクヴィルとベイズをつなげたいと思っています。

トクヴィルたちの保守主義を数学で表現すれば、



となります。ベイズ推定です。

ラプラスが発展させ、チューリングが発展させて(暗号を解読しました)、グーグルが猛烈に使っているのがこのベイズ推定です(グーグルだけではありませんが)。


*ラプラスの魔でおなじみのラプラス(^^)

ベイズの法則は、非常に単純です。

何かに関する最初の考えを、新たに得られた客観情報に基いて更新すると、それまでとは異なった、より質の高い意見が得られる」(シャロン・バーチュー・マグレイン 富永星訳 「異端の統計学ベイズ」p.013、先のケインズの引用は同p.12)、すなわち、ケインズの言うように「事実が変わったら、意見を変える」というアルゴリズムです。

これはまさに当たり前としか言いようがないのですが、科学者たちはその宗教的信念にかけて強硬に否定してきたのも事実です。

その信念とはシンプルです。

(引用開始)
ほかのことに関してはきわめて理性的な科学者や数学者や統計学者たちが、この定理に関してはまるで取り憑かれたように激しいやりとりをしてーーある観察者曰くーー「パイ投げ合戦」のようになってしまったのは、いったいなぜだったのか。答えはしごく単純で、ベイズの法則の核となるものが、科学者の心に深く根ざした「近代科学には正確性と客観性が要求される」という信条に反していたから。ベイズの法則では信念が尺度となる。この法則によれば、欠けているデータや不適切なデータ、さらには近似や無知そのものからも何かが分かるのだ。(シャロン pp.15-16)
(引用終了)

とは言え、近代科学の呪縛を抜けた新しい世代は「正確性、客観性?」でしょうし、便利だから使えばいいじゃんという感じでしょう。

ベイズ推定を受け入れると人間の認知のシステムもすっきりと見えてきます。

認知のシステムはシンプルで、「我々は古い知識と新しい知識を組み合わせて学んでいる」( (シャロン p.443)ということです。


カーネギーメロン大学が1980年代末に開発したコグニティブチューターというコンピュータプログラムは全米約2600の中学校で代数や幾何学を教える際に使われているそうです。

脳からすると、すべての事柄に高い優先順位すなわち重要性を付加することはできません。
ですので、数学的な概念を教えるときは、「ここ大事だから覚えておくように!」形式では覚えられず、むしろその概念なり公式や解法を繰り返し使ってはじめてその知識を自在に引き出せるようになります。「しかも、その概念をどれくらい近い過去にどれくらい頻繁に学んだかでその力が決まります

このコグニティブチューターは二重にベイズモデルを使っています。第一に脳をベイズ推定する機械とみなすこと。もう1つはその学生が新たな課題に取り組む準備ができているかをベイズ推定します。

(引用開始)
認識的学習システムでは、ベイズを連続的な学習過程と見なすだけでなく、ベイズの定理を使って各学生の「スキロメータ」を算出している。スキロメータとは、その学生があるトピックをマスターして新たな課題に取り組む準備ができているかどうかを示す確率のことである。このような二重のベイジアンアプローチがはじまってすでに10年になるが、このシステムで学んだ学生たちは、従来のやり方で学習を進めた生徒の三分の一の時間で、同等ないしそれ以上の内容を習得している。(シャロン P443-444)
(引用終了)

たとえば、ヒトの運動を考えても、事前知識と実際の現実世界からの知覚データの双方を組み合わせています。そして「ベイズのいいところは、たった1つの予測値が作られるわけではないという点だ。ベイズを使うと、与えられた知覚データを前提として、成り立つ可能性があるすべての状態に関する複数の予想が得られる。(略)
ベイズによると、脳は広範囲の可能性を記憶として蓄積する一方で、それらにさまざまな確率を割りふる。事実、色覚がこういう方法で機能していることはすでにわかっている。わたしたちは赤い色を感知したと思っているが、実際には色のスペクトル全体を見て、赤にもっとも高い確率を割りふっている。しかもそのうえで、じつはピンクだったり紫だったりする可能性を念頭に置いておく。」(シャロン p446-447)



*「わたしたちは赤い色を感知したと思っているが、実際には色のスペクトル全体を見て、赤にもっとも高い確率を割りふっている。しかもそのうえで、じつはピンクだったり紫だったりする可能性を念頭に置いておく。」


そんなわけで、一言で終わると思っても、意外と長くかかるのだなぁということを(これでも十分に舌足らずであることも重々承知で)、いつもながら痛感しますが、トクヴィルとベイズはつながると考えます。そしてこの視点はおそらく我々の認識に大きなブレイクスルーを起こしてくれるであろうことも。


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