天気に晴れの日、雨の日があるように、
私たちの心にも晴れの日、雨の日があります。
心の晴れの日は、順風満帆に進んでいけばいいのですが、
雨の日ともなると、そうとはいきません。
人生の雨の期間
とでもいえるでしょうか。
そんなときに、どのように考え、どのように過ごせばいいのかを、
伝えてくれるのが、本書
『失意のときこそ勇気を ― 心の雨の日の過ごし方』
となります。
著者の岩井俊憲先生は、日本にアドラー心理学を広く伝える勇気の伝道師。
次の観点から、心の雨の日の過ごし方が書かれています。
・岩井先生自身の生きざま
・アドラー心理学の考え方
・仏教の教え (特に、ブッダ直伝の原始仏教)
人生の暴風雨を経験された岩井先生が、
アドラー心理学や仏教の教えをもとに、
どのように過ごしたらいいのかを教えてくれます。
本書の構成は次のようになっています。
第一章 人生の晴れの日、雨の日
第二章 心の雨の日を過ごした人たち
第三章 二毛作の人生を生きる
第四章 心の雨の日を過ごす五つの知恵
第五章 真の楽観主義、そして勇気を
第一章では、人生の陰陽について説明されていて、
特に、人生の陰の時のメッセージの読み取り方が説明されています。
第二章では、古今東西の陰の日を過ごした人たちを取り上げています。
厳しい状況にあっても、新たな境地へと展開していった人たちから、
陰の日の過ごし方のヒントをもらうことができます。
第三章では、老いを 「成長のプロセス」 と捉えることで、
「人生の再創造」 の視点で生きることが書かれています。
第四章と第五章では、心の雨の日を過ごす知恵として、
「5つの知恵」 を提示しています。
本書の第五章では、「勇気」 についての説明があります。
アドラー心理学では 「勇気」 をとても大切にします。
一般的に使われている「勇気」という言葉だけでなく、
アドラー心理学では、いろいろなニュアンスを含みますので、
本書の説明はとても貴重だと思います。
また、「共同体」 についても丁寧に説明しています。
アドラー心理学で最も大切な共同体感覚ですが、
意味がつかみにくくもありますので、
本書の共同体の説明を読むことで、
共同体感覚の意味が腑に落ちるようになるのではないでしょうか。
アドラー心理学で重要な 「勇気」 と 「共同体感覚」。
その意味するところが、本書を読むことで、スッと胸に入ってきます。
また、仏教の教えからも、説いてくださっています。
本書の帯に、次のように書かれています。
人生は順風 (陽の時) ばかりではありません。
逆風(陰の時)もまた人生。陰の時にも意味があります。
大切なのは、その 「陰のメッセージ」 を読み取ることなのです。
まさにその通りで、
人生、陽の時がずっと続けばいいのですが、そうはいきません。
陰の時の過ごし方も、心得ておくべきではないでしょうか。
成功、お金、夢実現、など、
世の中、「陽」 に焦点にあてた本は、たくさん出版されています。
しかしながら、「陰」 のときにどうすればいいか、
という切り口で、誠実に書かれている本は、意外と少ないのではないでしょうか。
本書は、一冊を通して、陰の時の過ごし方がテーマに書かれている
とても貴重な本だといえます。
しかも、どん底を体験された岩井先生自身が、
アドラー心理学や仏教の考え方を交えて、説いてくださっています。
最後に、本書の 「はしがき」 にある岩井先生の言葉を紹介します。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
生きていく上で誰にでも訪れる「心の雨の日」。
その時に、「不幸の主人公」 「絶望の当事者」 となってしまうのではなく、
つねに冷静さを失わず 「知恵」 と 「勇気」 をもって克服する
— そのお手伝いになるよう徹頭徹尾心がけました。
本書が現実に心の雨の日に直面している人、
かつて雨の日を過ごしたことを心の中で整理したい人、
これからの心の雨の日に備えたい人
に役立つ本となれば、「勇気の伝道師」 の著者にとって、
こんなにうれしいことはありません。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『失意の時こそ勇気を ― 心の雨の日の過ごし方』
岩井俊憲、コスモス・ライブラリー
(追記)
2020年4月7日(火)、コロナウィルスの拡大により、
翌日からの緊急事態宣言が発表されました。
1ヶ月程度がメドとなりますが、
この先、どうなるか分からない予断がゆるさない状況となってきました。
これまでも、
買占めや、大騒ぎ、同調せよという圧力、
ネット上の根拠のないうわさや誹謗中傷など、
様々なことが起こっています。
社会全体が雨の日に入り、「勇気」 を欠いているのではないでようか。
私は7日(火)から、もう一度この本を手に取り、ゆっくりと読み直しています。
心に栄養素を補給するように、この本をじっくりと熟読しているのです。
大学への行き帰りの電車の中などで、
この本を取り出しえ、思いにふけっては、ゆったりとしている。
岩井先生がこの本の中で仰っているように、
「陽」 の時は心の晴れの日、成長機会をうかがって、積極的に活動を展開する日。
一方、「陰」 の時は心の雨の日、無理に進もうとすれば消耗するだけ。
充電の時、リラックスして再創造に備えるとき思い、
発想を切り替えて過ごすのがいいのです。
私はこの本を読んで、本当にその通りだとしみじみと感じています。
今は、社会全体が自粛で停滞している時期、
焦って進んでも消耗するだけです。
「癒しの時」
だと考えて、ゆっくり充電しようと思う。
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