【Episode.1 祈り】
5
(7年前、おばあちゃんが亡くなった
あの日の出来事を
今でも時々夢にみる。
その後はいつも決まって、
真っ黒い闇のような泥沼にはまり
足掻き藻掻き溺れる夢が続く…)
(その時、手を差し伸べ救ってくれるのは
不思議なことに、私…
雰囲気のまるで違う、もうひとりの私…)
(この夢を見るといつも自分の身体と魂が
分離してしまいそうな不安定な感覚に陥る…
身体が怠い…
意識の彼方から私を呼ぶ声がする…)
「…ヤンスッ!…起きるでヤンスッ!」
「……おは…よう…
…ぐうう」
「寝るなっ!でヤンスッ!」
そう言って寝ている少女のそばにいる
木人形は少女の頭を叩く。
「 !! いった〜い!
何も叩かなくてもいいでしょっ !?」
「いつまで寝てる気でヤンスか?
もう隊商の人達は
出発の準備始めてるでヤンス!
せっかく、じいちゃんが話をつけてくれたのに
置いてかれるのはヤでヤンスよ?」
「…分かったわよ」
怠そうにベッドから
起き上がった少女は
自分を叩いた木人形を
軽く叩き返した。
「お〜い、マコや
起きたんか?」
下の炊事場から老人が声をかけてきた。
「う~ん、今起きたところ〜」
「早く起きといで、
ご飯にしようや」
「わかった〜すぐ行く〜」
炊事場の窓から外を眺め
物思いに耽る老人がひとり。
広がった額から白髪を後ろへなで付け
口髭と顎髭、豊かな眉毛も
すべて真っ白な老人。
歳に不相応な筋肉質の腕が
シャツの袖から出ている。
その傍らには、
老人と同じくらいの背格好の
木人形が立っていた。
老人は炊事場で
しばらく佇み、
老人がマコと呼ぶ少女が初めて
この家に来た時のことを
思い起こしていた。
「マコがここへ来て、
もう10年経つかのぅ…」
老人はひとり呟いた。