(12)【Episode.1 祈り 】6 | 人形使いが旅に出る

人形使いが旅に出る

ダークファンタジーライトノベル

 

【Episode.1 祈り 】

 

6

 

 

 

 

「マコがここへ来て、

もう十年経つかのぅ…」

 

老人はひとり呟いた。

 

 

 

 十年前のある夜

古い友人が突然

幼い子供を抱きかかえて

老人の元へ訪れた。

その友人の白髪交じりの

長い髪は乱れに乱れ、もつれ合い

粗末な服の上から

煤けて汚げな黒いローブを

身に纏っているだけ。

昔の艶やかな姿とは

似ても似つかぬ

かけ離れた姿だった。

 

 身震いするくらい鋭い目付きが

当時の面影を残していたが

老人は最初

誰だかわからなかったばかりか

子供を攫ってきた妖怪が

目の前に現れたと思い

あまりの恐怖に

少し漏らしてしまった。

 

 

 

 しばらく驚きで声が出なかったが

我に返り絞り出すように唸った。

 

「よ…う…」

 

「久しいな、キリコ…

いきなりでなんだが

私とこの子を匿ってくれないか?」

 

「か…い…」

 

「どうした、キリコ?」

 

「……妖怪じゃ、妖怪がおる!」

 

「誰が妖怪だ!ガティアだっ!

忘れたかっ!このボケじじいっ!」

 

老女は叫んだ。

 

「!! ほんまかっ!?」

キリコとよばれた老人は

改めて子供を抱える老女の

顔を覗き込んだ。

確かに言われてみれば

昔の面影がある。

(…しかし、この乱れようは何だ?

そして匿ってくれとは?

何かに追われている?

ダメじゃ、頭が混乱する!)

 

ガティアと名乗った老婆は

少し疲れたように続ける。

 

「…理由は…

…いずれ、話す」

 

「…どういうことじゃ?」

 

「いずれ話すと言ったろうっ!」

 

混乱して思考停止するキリコに

ガティアは苛立ちを覚え、思わず

また声を荒げた。

 

 その形相は妖怪そのものだった。

溜め息をつきながら、

諦めの表情で

キリコは応える。

 

「…あんたは相変わらず短気じゃのう、

匿うのはいいが、その子は?」

 

「私の孫だ、名は…マコマ」

 

「孫!?」

 

「………キリコ、後生だから、

今はもうそれ以上訊くな…

いずれ…

時機が来たら

必ず話す……」

 

 昔から勝ち気な性格のガティアが

こんなにも弱気になっていることに

キリコは、驚きを隠せない。

 

それほど事態はかなり深刻なことだろうと

察してそれ以上は訊かなかったが

 

(ガティアは何かから逃げて来た…)

 

それだけはわかった。

 

そして、彼女が

真相を語ることは

最後までなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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