〜“Nobody's Perfect(完璧な人などいない)”〜
特撮ドラマ『仮面ライダーW』には、正統公式続編となる漫画『風都探偵』があります。
今回はその『風都探偵』の中から、特に『W』本編で語られなかったニッチを埋める、映画『メッセージforダブル』の後日談となる「sの肖像」の1から3が特にとても良い話で個人的に大好きなので紹介します。 尚、本エピソードは『風都探偵』コミックス第6巻に収録されています。
スパイダー・ドーパントの一件から鳴海荘吉は完全にやさぐれ、探偵事務所を畳んでいた。
そんな中、一人の少年が探偵事務所の扉を叩く。
「おれをあんたの助手にしてくれ、おやっさん!」
これが、左翔太郎と鳴海荘吉の出逢いであったーー。
この「sの肖像」1〜3は、『W』の中でも意外と謎が多かった翔太郎のバックボーンを知れる貴重な話でもある。
『W』本編ではフィリップの謎に焦点をおいていて、翔太郎関連は結構おざなりな印象だった。
翔太郎は平成ライダーの主人公では珍しく、年齢はおろか過去も全くといっていいほど描かれないという結構謎が多い人物であった。
本エピソードはそれらを鳴海荘吉の再起と絡めつつ、翔太郎の少年期から青年期、つまり『ビギンズナイト』までの翔太郎の人生の一端が明かされている。
荘吉に弟子入りを懇願するも「我慢が足りない」という理由で、翔太郎少年は荘吉に全く相手にされない。
それでも懸命に荘吉のもとに通い詰める中、スパイダー・ドーパントの件で地雷を踏んでしまった翔太郎は、荘吉の煎れるクソ不味いコーヒーをなんとかして、荘吉の機嫌を直させて役に立ちたいと、馴染みのコーヒーショップでコーヒー豆を購入し公園の傍を歩いていた。
そんな翔太郎に狙いを定める怪しい影が1つ。アリジゴクの記憶を宿したアントライオン・ドーパントだ。
こいつは、地面ならば何処でも砂地獄へと変え、獲物となる人間の体液を吸うことを趣向としていた。
特に若い女性と子供が好みという危ない奴。
案の定、その夜も一組のカップルが餌食に。
と、縄跳びを足にくくりつけた翔太郎が助太刀に入る。
カノジョは救出できたが、カレシは餌食になってしまった。
そして、穴に落ちた翔太郎も毒針で身動きがとれない。
まさに絶体絶命!
一方、荘吉はシュラウドから連絡を貰っていた。
断りかけた時、シュラウドが子供が犠牲になっていると言い、反応する荘吉。
“目付きの悪い子供”ーー翔太郎の顔が浮かぶ荘吉。
絶体絶命の翔太郎。アントライオン・ドーパントの“俺の街”という言葉に反応する翔太郎。
「…おい、てめえ……訂正しろよっ。『俺の街』じゃなくて、『俺たちの街』だろ!間違えんな!
俺も街を自分の庭みてえに駆け回ってるが、「住まわせてもらってる」って気持ちを一日だって忘れた事はねーぜ!この街はみんなのものだ!それを踏みにじって独り占めしようとするようなやつは、とっとと出てけよぉッ!」
キレて襲い掛かるアントライオン・ドーパント、そして、そこにシンバルキック炸裂!
「……おやっ…さん!」
「……聞こえたぜ、お前の啖呵。坊主、名前は?」
「左……翔太郎」
「しばらく寝てろ、翔太郎。お前は決して殺させない」
気を失う翔太郎。
「手頃な穴があって良かった。「穴があったら入りたい」…そう思っていたところだ。こんな小さな子供の方が、俺などよりよほど風都に生きる人間の誇りを強く持っていた…!
休業は今日で終いだ。俺はもう一度戦う。俺自身の手がどれだけ血塗られていても……
街を愛するこいつらの……未来のために!」
『スカル!』
「変身」
再びスカルとなった荘吉。額に“S”が刻まれる。
「…心を捨て……街を泣かした悪党は…もう人ではない。倒す事以外では救えない。
さあ…お前の罪を……数えろ」
ーーと、まあこんな感じでスカルはアントライオン・ドーパントをぶっ倒すわけですが、ここまでで判明したのは、
・翔太郎の両親は幼少期に既に事故で他界。翔太郎は親戚を頼って風都にて叔母のもとで暮らしていた。
・変身者の骨格を極限にまで強化するスカルは、血肉や神経が無い故に痛覚もなく限りなく不死身に近い。
という感じですね。
個人的には、スカルの盛り盛りのチート設定よりも翔太郎の家庭事情が知れて良かったですね。
そんでもってスカルの戦いをちょこっとだけ目撃してしまった翔太郎。しかし、スカルの正体が荘吉だとは知らない。
で、荘吉はといえば、翔太郎を認めたかと思いきや、普通に弟子入りはスルーするという非常に常識的な対応。
その後、翔太郎は大きくなるまでず〜っとおやっさんのもとに通い続けて弟子入りを懇願し続けていたのでした。
しかし、高校生というお年頃になった翔太郎は焦りからやがて荒れるようになった。
街の不良を片っ端から自己正義の名の下に鉄拳制裁しては問題を起こす日々。この頃から当時は平警官だった刃野にご厄介になっていたようで。また、刃野の方もおやっさんのことを“鳴海の旦那”なんて呼んだりしている感じ。
そんな中、翔太郎が病院に運ばれたということを知った荘吉。
またなんかやらかしたのか、しかもあいつが痛めつけられるなんて珍しいなんて刃野に訊く荘吉。以上から翔太郎の地力はこの頃あたりに本格的に身に付いたのだと思われますね。
で、刃野曰く、翔太郎は不良達に因縁をつけられていた野球部員を救うためいつもの如く鉄拳制裁しようとしたわけだけど、暴力沙汰を起こすとその野球部員は出場停止になってしまう。だから、代わりに一方的に病院送りになるまで殴られ続けたのだ、と。
翔太郎は暴力は振るっても、弱いもの虐めは絶対にしないのでした。
それを訊いた荘吉は、遂に「多少は我慢が出来るようになった」ということで翔太郎を、高校をちゃんと卒業することや叔母さんにちゃんと許可を取ることを条件として晴れて助手にすることを許すのでした。
そのシーンがまた泣けるんですわ。
「ーーお互い意地の張り合いはここまでにしようか、翔太郎。俺も本当はアリジゴクの化物と戦ったあの日から、ずっとお前が気になってた。だが、探偵の仕事は綺麗事だけじゃできねえ。自分の事より他人のための我慢を選べるようになった今、おまえを半人前の男ぐらいには認めてやる。
その心で…俺と一緒にこの街の涙を拭おう……」
荘吉のそんな言葉を受けて、次のほぼ1ページに渡り大きく描かれた涙する翔太郎には流石に涙を禁じ得ない。
そして、そんな二人のやりとりを影で見ていて、良かったな翔太郎、なんて思う刃野も地味に良い。
それから無事に更正したと思われる翔太郎は、荘吉の事をエネルギーにして高校をめでたく卒業し、晴れて荘吉の弟子になった。
そうして、あの『ビギンズナイト』に繋がる、というわけです。
この「sの肖像」は翔太郎がときめにフィリップから聞いたもの等を総合して推測にて語るという形式を取っている。
荘吉の心情が、「sの肖像」の「3」以降になる、特に『ビギンズナイト』の補完は深く掘り下げられていて大変良いです。
因みに、個人的に『ビギンズナイト』において荘吉がフィリップの精神世界に入れたのがずっと地味に謎だったんですが、これを読んでなるほどな〜と半ば強引に理解。スカルメモリの力だったんですな。
ジョーカーメモリといい、スカルメモリといい、チートすぎんだろ!?とは思いますが(笑)
そして、荘吉の最期。あれは、ロストドライバーを破壊され、加えてスカルメモリも無い状況でダブルに頼る他なくなった際にフィリップを利用することはミュージアムと同じ事をすることになるのではないかという一瞬の迷いから油断した結果だったんですな。
設定とかもそうですが、こういった超細かい部分のフォローが『仮面ライダーW』関連は丁寧で好感が持てます。
また改めて『ビギンズナイト』観たくなったし、観るとまた違った印象を受けると思います。
そして、「sの肖像」はエピローグがとてつもなく素ん晴らしい。
あと、コミックス巻末の吉川晃司さんのロングインタビューは感激しましたね。
仮面ライダースカルーー鳴海荘吉というキャラクターを吉川さんがいかに未だに大切にしているのかがよく解りました。
コミックス第6巻は仮面ライダースカル、鳴海荘吉好きにはたまらない巻です!
『ビギンズナイト』の焼き直しでは決してないので、避けてる人は一読をお薦めします。