『椿三十郎』(1962) | 日々是(ひびこれ)デス・ロード

日々是(ひびこれ)デス・ロード

自分の好きなものについて垂れ流していくブログです。基本ネタバレ全開なんでそこんところ注意。

〜巨悪を潰せ!スーパー三船敏郎パワー全・開ッ!!〜


気づけば、もう2月である。日が長くなりましたな。
あと3ヶ月で無事、30を突破いたします…(´Д` )
そんでもって、人生、何となく無事順調に詰んできているというね…。
もうね、25過ぎた辺りから毎年誕生日来るのが嫌で嫌で…。
本当はブログなんか書いている暇はないんですが、こんな場末のブログでも、一応の日々の気晴らしみたいにはなっているのでね汗

というわけで、本当は誕生日月に記念で挙げようと思ったんですが、なんせ祖父譲りの超せっかちな性分なもんでして…汗
なんか記事が完成してしまったので、今回は一足早い俺のお誕生日記念ということで、俺の大大大大大好きな映画、もうマイフェイバリット映画である『椿三十郎』(1962)です!
もう、千回以上観ている唯一の映画です!



ある夜、森の中の古びた社殿で九人の若い侍が密談をしていた。というのも、藩の次席家老・黒藤と国許用人・竹林の汚職を告発しようとしていたのだ。
若侍の一人・井坂は、その意見書を叔父である城代家老・睦田に届け出て事の次第を訴えたのだが、睦田は意見書をビリビリと破き、「この件には関わるな」と釘を刺した。
叔父の日和見の様に思える態度に憤慨した井坂は、打ち合わせ通り今度は大目付の菊井の元に相談に行った。
すると、菊井は最初は驚き困惑しつつも最終的に助力を勝って出、一同を一ヶ所にすぐさま集めて対策を練りたい旨を言ったのだった。
井坂のその話に一同が歓喜する中、社殿の奥から欠伸が一つし、一人の素浪人が姿を表した。
話は全て筒抜け、身構える若侍達にその素浪人は一切動じずに、睦田こそが本物で菊井が黒幕だと言い、静観していろと言った。
だが、井坂は今夜この社殿に一同が集まることを既に菊井に言ってしまっていたのだった。
素浪人の言う通り、社殿は周りをぐるりと菊井の軍勢に取り囲まれていた。
もはやなす術がないと焦り殺気立つ若侍達を戒めた素浪人は、持ち前の機転で無事に軍勢相手にやり過ごす。
素浪人に感謝する若侍達。飯代を受け取り立ち去ろうとする素浪人だったが、今度は睦田の身が危ないことに気付く。
またもや焦る若侍達。
「こうなれば、死ぬも生きるも我々九人!」
「十人だ!お前達のやることは危なくて見ちゃいらんねぇや!!」
こうして、九人の若侍達と一人の素浪人が巨悪に立ち向かうことになるのだったーー。



というわけで、いや〜、『椿三十郎』ですよ!
私はね、本当にこの映画が魂の底から大好きなのです!
こんなに完璧な映画は本当に滅多にお目にかかれない。ガチで。

まずは、キャラからですかね。

最初は当然、なんと言っても三船敏郎ですな。
有無を言わせぬ圧倒的な存在感。頭も良ければ剣の腕も立つ。渋い顔してそれでいて少しばかり茶目っ気があるそのバランスがすげー良い塩梅なんで、俺は三十郎でも本作の三十郎が好きなんすよね〜♪
その一挙一動がもう語り尽くせないほど魅力的。
好きなシーンは、全部!
あとは、アクション。三船敏郎は斬る際には息を止めているらしいんですが、この頃はやっぱり素晴らしくキレがある。
しかも二度斬りや突きを連発しているところがリアル寄りで大変良いですな。
因みに、合気道の開祖・植芝翁先生曰く、刀で人を斬るということに関して、人の脂は非常にしつこくて数回斬っただけで刃は血脂で役立たずになってしまうそうな。翁先生が蒙古で馬賊に襲われて戦闘になった際にその様なことになり、あとは突いて突いて突きまくったらしいです。
合気道を創設する前は剣術を極められた翁先生が仰るんですから多分マジでしょう。
なので、時代劇のような連続して大数人を斬るということは現実的ではないようです。
しかしながら、本作の中盤の三十郎の大立回りは超必見です。
個人的に殺陣は『用心棒』よりも本作の方に軍配が上がると思います。
で、捕まった若侍達を助けるためにその大立回りを披露した三十郎。
しかしながら、この時代劇の異色な点は、三十郎がむやみやたらに刀を抜かずに(といっても、城代の奥方に戒められていますが…)、まずは頭を使うことにある。
刀で人を斬るのは三十郎にとっては最終手段なのです。
だから、大勢を斬った後に、バカな若侍達に対して「てめぇ達のせいでとんだ殺生したぜ!!」と怒って若侍達の頭を叩くわけです。
大立回りといえば、冒頭のも忘れてはならない。
鞘に刀を納めた状態で、バッタバッタと大勢を倒していくのが超格好いい!

そんな三十郎に惚れ込んじゃったのが運の尽き、な仲代達矢演じる本作の大ボス・室戸半兵衛。
こいつは菊井の右腕で、作戦立案は大体こいつ。菊井の右腕として振る舞うように見せかけて、実はうま〜く菊井を利用して旨い汁を啜っているわけです。
三十郎とは、コインの表と裏に当たるキャラです。
冒頭の三十郎の大立回りから三十郎の腕を見抜いて彼を勧誘。菊井に取り入って一緒に旨い汁を啜ろうじゃないかと誘いますが、三十郎は当然のことながらはなからその気ではなく、室戸に乗った演技をしているだけ。
そんでもって、最終的にそんな三十郎にコケにされたと逆ギレし、あの映画史に残る三十郎との決闘になるわけですな。
こいつは、悪役なんだけど、自分のことを悪だと十分に理解しているキャラ。俺にとって室戸は只の悪役ではない、三十郎に対する一途さや、決闘の際に三十郎が若侍達だけは斬るなと言って、それを了承したりと、悪役には収まらず何故か憎めないキャラなのです。
というより、大人になってから歳を重ねて観るにつれて、室戸のような奴は普通に居るよね、って感じなんですよね。そういう点で、室戸が単なる悪役に見えなくなってきてしまう。強いて言えば、憐れな当て馬ヒロイン、みたいな?(笑)

じゃあ、本作の真ヒロインは誰なの?というと、入江たか子演じる城代の奥方です。
本作のMVPは、もう入江たか子と言っても過言ではない。
おっと〜りゆった〜りしているように見えてその実、武家の妻らしくしっかりと胆が座っている底が知れぬこのお方。
入江たか子の演技が見事すぎますわ。
入江たか子は元華族の元セレブなわけで、もう育ちが丸分かりなわけです。
黒澤明が頑張って口説き落とした意味は本作において大いにあります。
三十郎もマイペースかつ真理を突いてくる奥方にはもうたじたじ。
そんな個人的に大好きなキャラであります。

大好きなキャラというと、小林桂樹演じる本作のコメディリリーフ・“押入れ侍”木村も忘れてはなりません。
元々、確か小林桂樹かフランキー堺が主役を張る予定だった本作の原作『日日平安』。それが紆余曲折を経て本作『椿三十郎』となったわけですが、小林桂樹、出られて良かったね。
この木村は、言わば本作における第二の知恵役。三十郎が不在の際は、血気盛んな若侍達を戒めたりします。
ここの演技の呼吸が素晴らしい。黒澤節に関しては後述しますが、とにかく素晴らしい。

城代役の伊藤雄之助も短いながらも存在感抜群。
奥方曰く“タヌキ”。超キレ者だと一目瞭然な見事な演技は素晴らしい。
「ーー尤も、菊井は自ら腹を捌いてしまったが」とか黒澤節(後述)な台詞が大好きです。
そして、“嫌な話”をした後の自虐フォローも城代の人柄を象徴していてこれも大好きです。

若侍達も、加山雄三を筆頭として、平田昭彦、田中邦衛など今見るとそうそうたるメンツ。
そして、奥方の娘の千鳥役の団令子も芸達者ですねぇ。個人的には『血と砂』のおハルさんが一番好きです。


続いて…。
黒澤節がもう俺は大好きでしてね。
超面白いストーリー、抜群のカメラワーク、台詞回し(黒澤節)とかetc.。本作もやっぱり超素晴らしい。
特に黒澤映画や黒澤脚本の台詞回しが俺は大好きで、例えば本作においては「お前ぇ、丑年の生まれか?」のくだりとか、「ーーこの調子じゃお前ぇ、城代の居所を見つけ出す頃には、俺は白髪の……七十郎だぜおい!」なんて、さも当たり前のように自然に入れてくるのが凄い。
そして、そんなコメディ的な明るい作風であってもどこか乾いている、無情なところが魅力的。素晴らしい。

そして、三十郎に関しては、今回もバックボーンは全く語られてないし、語られる必要はないけども、じゃあなぜ若侍達に助言をし、加勢までしたのか?
三十郎はお節介者なのか。多分違う。そんなに単純ではない。
個人的には、多分、三十郎は過去に若侍達と似たような正義に燃える志を持った存在であったり、また反対に、室戸みたいに徹底的な悪をやった末に心底痛い目を見たのかもしれないのだと思う。
だからこそ、三十郎は動いた。他人…それもまだ青い若者達が道を踏み外さぬように。
「お前ぇ達には愛想が尽きたぜ!」とか、「全く、利口だよお前ぇ達は(皮肉)」とか、「勝手にしな!」とか言いつつも結局は節目節目で助け船を出してくれる。
そして、奥方に言われた言葉…「あなたは少しギラギラし過ぎていますね。抜き身みたいに。でも、本当に良い刀は鞘に入ってるもんですよ」の“抜き身の刀”。
「こいつは俺と同じだ…。“抜き身”だ…」
決闘の後に、室戸の屍を見ながらそう言う三十郎。その苦々しげな、苦しそうな言い方は、自分にも向けられたものだろう。
「俺はお前らみたいな奴が大嫌いなんだ!」とか言って『用心棒』にて、助けてくれた三十郎に土下座する一家にキレた三十郎。
本作の三十郎は彼と同一人物かは分からないが、しかし、三十郎は過去に痛い目を見たことは間違いないと思う。


ツンデレでは決してない。そこは誤解してはならない。
けど、三十郎のその不器用さと生来の真にあるお人好しさに魅力を感じずにはいられない。
まさに、俺含め視聴者も、三十郎には「見ちゃいらんねぇや!」なのである!

追記:そうそう。そういえば、走っていってそのまま数人を斬って歩くに変わる三十郎のシーンも大好きです。