それが、原則8番の「相手攻撃を弱体化又は無力化する」と原則9番目の「自分の攻撃の効力を最大化する」を組み合わせた戦術の開発である。それは、「相手攻撃の効力を弱体化又は無力化し自分の反撃の効力を最大化する」という原則である。
補足を加えれば、「相手の攻撃を防御技で弱体化し、相手の心身が弱い状態(虚の状態)になったところに自分の得意技を決める」という戦術である。
大きく括れば「クロスカウンター」(交差攻撃)の前段階だと言っても良い。
そのような技の事例を挙げれば、22回全日本選手権の決勝で緑氏との対戦に見られる。緑氏は瞬発力を活かし、入り身から間合いをつぶし、左下突きを出してくる。私は、その間合いを退き身で少しだけはずしながら下突きを受け、間髪を入れずに、右上段回し蹴りを決めた。そして、その技で私は、悲願の全日本選手権の優勝を決めたのである。
そのような技は、「相手攻撃を弱体化し自分の反撃の効力を最大化する」という原則の実践例である。
そのような原則の実践能力としての技術は、更に高次化され、クロスカウンター(交差攻撃)として具現化した。
例えば、100人組手の際の合わせ下段による倒し技は、クロスカウンターである。また、相手が動いた際、僅かにできる隙に中段回し蹴りや下突きを決める戦術は、すべて原則8番と9番の組み合わせであり、クロスカウンターなのだ。
第5回世界選手権大会では、相手選手の後ろ蹴りを斜め送り足による体さばきでかわし、同時に中段鍵突きクロスカウンターを決め一本勝ちを決めた。
また、サウスポーの相手の動きの中にできる、一瞬の隙を踏み足による中段回し蹴りで攻撃し一本勝ちを決めたのも、クロスカウンターである。
また、体力に任せ私の下段を狙ってくる攻撃に対し、それをすね受けにより無力化し、その瞬間に生じる僅かな隙を中段の直突き(人には下突きに見えるようだが、正確には直突きと下突きを融合したような突き方である)を決める技も原理的にはクロスカウンターである。私はこの技で、100人組手のダメージによる体力低下を補った。それどころか、体力に不安があるがゆえに、あいてを見切り、このカウンターで一本勝ちの山を築いた。
その戦術は、「新しい技を身につける」「得意技を身につける」等、原則1番から9番まですべての原則の実践の結実かもしれない。また、組手戦術の究極型でもあると思っている。
その戦術は、それまでの体力に依存する攻撃主体の私の組手を、防御と攻撃とを一体化し、より技を効果的に駆使する組手に変えた。
その戦術のおかげで、100人組手による後遺症に苦しみながらも、世界選手権の決勝を戦い、無傷で試合を終えることができた。奇跡的とも思える戦いであった。それもすべて原則を守ったことの結果である。
【9原則によって私が示したいこと】
この9原則によって私が示したいことは、勝つためにはより総合的な稽古と努力が必要だということだ。すなわち、「体力」「メンタル」「防御技術」「攻撃技術」など、すべての面に関しての準備、努力が必要だということ。そして、それが戦略的に意識され、戦術に反映されていなければならないということである。
そのような準備を怠らなければ、総合力が勝利に導いてくれるに違いない。
この9原則には、目標を持つことを挙げなかったが、空手道の上達には、高い目標が必要なのはいうまでもない。
そして、高い目標を達成するには、小さな目標を設定し、それを一つ一つ階段を上るように達成していく方法がよいだろう。
読者の方には、これまで述べてきたことの意味がすぐに理解できないかもしれない。しかし、これまで挙げてきたような原則の研究及び、その実践が必要だと、先ずは思うことから組手の上達が始まると考えて欲しい。
「必要は発明の母」という金言があるが、本当に必要だとイメージ、意識できなければ、何事も形にならないだろう。
【体力とは】
もう一つ、ここまで技術的なことを中心に書いてきたが、体力について少しだけ書いておく。体力とは競技を行なうための基礎的土台、同時に技術を駆使するための基礎的土台であると考えている。
その他、技術や体力だけでは勝利できない、「運」も必要だという人がいる。しかし、「運」で勝てる程、勝負は甘くない。確かに「運」としか言いようのないことも多いが、それを強調する人の言を私は信じない。
なぜなら、その人は深く物事を考えていないに違いないからである。 (続く)
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