「不敗の組手」組手に勝つための9原則〜その3 | 増田 章の「身体で考える」〜身体を拓き 心を高める

前回の続きだが、この部分は拙著では、抽象的過ぎるとして大幅に削除したように記憶する。今回は削除前のものを載せる。推敲前の原稿なので、抽象的過ぎる部分はご容赦を。

【不敗の組手】

 

ここで、私が理想(理念)とする組手について語ろう。私の理想は、不敗の組手と言って良いだろう。

理想とは、はかないものでもある。また、現実はそれと矛盾するかのように見える事がままある。しかし、それを目標に努力し、検証していく事は組手の上達にとって有意義なはずだ。


ゆえに理想を絶対視しては行けないと私は考えている。それは、目標が修行レベル、上達レベルによって変化していくように、ここで述べる仮説としての理想も変化する可能性がある。ここで述べる理想は、私が空手を始めて40年近くの試行錯誤の果てに想い描くものである。


今後、思い描く理想が変わる事もあるかもしれない。私はそれで良いと思っている。理想というのはそのように絶えず更新して良いものなのだ。


【どのような相手にも負けない組手】

さて、「不敗の組手とは何か」換言すれば、「どのような相手にも負けない組手」である。しかし、競技は勝つ事を目標として行なわれる。負けないというだけでは勝てない事は自明である。


また競技を行なう際、選手が勝つ事を目指さなければ、競技は成立しない。柔道等ではそのような戦い方は「指導」を宣告され、反則行為と見なされる。

にもかかわらず、負けない組手とはどういう事なのかと読者は思われるに違いない。その意味をこれから述べたい。


この部分は、ルール設定(状況)が特異な極真空手競技における、私の特異な体験にから導きだされた独自の考えかもしれない。ゆえにルール設定が合理的なスポーツ競技のような場合は、「勝つことを信じ、あきらめずに努力する」というような原則が成り立つかもしれない。


ここで、戦いの状況について考えてみる。戦いの状況とは、戦いの局面という意味で観れば多様である。しかしここでは、枠組み(ルール)という面で考える。その枠組みには、勝敗を決定する価値基準を含めた勝負観が内包されている。


そのような面から観れば、競技における戦いの状況は1戦限りの戦いで勝敗を決する形式、複数回の戦いに勝ち残ることで勝敗を決するトーナメント形式などに分けられる。また、総当たり戦で勝敗を決する形式もあるかもしれない。


しかし、どのような枠組み(ルール)であろうと、そのすべてに共通する事は、やはり一戦一戦に勝つ力、1対1に勝つ力が必要な事は言うまでもない。



私の組手法と技術は、トーナメント形式の競技によって鍛えられた。そのような枠組み(ルール)の場合、決勝まで勝ち上がらなければ、最上の評価は得られないようになっていた。


それが、最高の勝者を創出する枠組みであるかどうかは疑わしいが、本書の主題ではないので取り上げない。

私の場合、トーナメント形式の戦いの状況において、競技選手として
1戦1戦に勝つ事と同時に最終局面まで負けずに勝ち上がらなければならなかった。

そのような枠組み(状況)で戦う場合は、勝つこと以上に負けないという事が重要なテーマになっていくのが必然である。以上のような経験から、「負けないと決める」という原則が導きだされたのである。


しかし、言葉で表現すれば矛盾を感じ得ない表現かもしれない。例えば、「絶対に勝つ者と絶対に負けない者が戦えば、どちらが勝つのか」というように。


そして、その答えは「負けないことと勝つことは表裏一体である」という抽象的な答えになってしまう。あえて結論付ければ、トーナメント戦では、負けない組手の方が有利というのが私の経験的な直感である。(時間があれば更に考究したい)


もうひとつ補足を加えれば、先に挙げた戦いの原則の6番目の「負けないと決める」とは、勝ち方という面のみで捉えるのではなく、心構えという面で考えて欲しい。その意味を説明しよう。


そもそも、勝利を完全に予測すること等できる訳がない。また、勝敗というのも一つの価値観を基盤にしている訳であるから、不確実なものである。


もし、戦いのゴールを「勝敗」の代わりに「生死」と置き換えたとしても、同様に完全な予測等できない。しかし、人間が必ず死ぬということだけは理解できる。


そのように考えると、私が「負けない」と決めるのは、必ず死ぬと理解するところから、より善き生が創造できると考えるのと同様である。


言い換えれば、必ず負けるということを理解するところから、より善き勝利が創造できると私は考えている。


つまり、負ける要因を減らす努力を怠れば、負けることは必然なのである。


すなわち、私のいうところの「負けないと決める」とは、負けるということを覚悟するところに立脚している。そしてそこから、「負ける要因を可能な限りなくすと同時に勝利を得るためのあらゆる可能性を開拓していく」という心構えを意味している。(続く)



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