明日、早稲田大学極真会のOBを前に空手の話をすることになっている。
私は、選手時代の話を少しさせて頂いてから、私の空手理論の話をさせていただき、最後にこれからの極真空手について私の構想を聞いて頂こうと考えている。
その話の中核をなすものに私の空手上達理論がある。その内容は、昨年、フルコムの協力を得て、東邦出版から上梓した、「勝てる歩法」という技術書の冒頭に載せたものである。
この本は、「勝てる」「歩法」という語句による先入観により、何らかの極意を読者の方は期待されたかもしれない。
しかし、そのような極意が仮にあるとしても、そんなものは実際には使えないまやかしであることが多い。私の考えは、先ずは、着眼点を空手上達理論に置き、そこから技術を考えるのでなければ、使える技術は身に付かないと断言しておく。
今回、明日の講演内容の整理も兼ねて、少し修正を加え数回に分けて、拙著に掲載した空手上達理論を掲載したい。
ほとんど内容に修正はないが、拙著では「組手に強くなるための9原則」というタイトルを付けてある。
それでは・・・。
【組手に上達するために】
「基本、型、組手、鍛錬法、心法」流派を問わず、空手道の体系には前述のような要素が体系づけられているはずだ。私の流派は、さらに基本を伝統基本と組手技基本の2種類、型を伝統型と組手型の2種類に、組手法にクラシック方式とフリースタイル方式の2種類に分けている。また、特別科目として、護身技や頭部打撃有り(寸止め)の組手や理論としての兵法などが体系づけられている。
すべてを習得するには、かなりの時間を要するであろう。しかし、空手武道の修練が生涯をかけてのものと考えれば、少しずつ修練を積み重ねれば、誰もが習得できると私は考えている。
これまで、多くの道場生を観てきたが、多くの人の興味が組手の上達であった。
【組手の9原則(組手に勝つための9原則)】
組手修練は力任せに行なっても、怪我をしたり、相手との感情的なしこりを残したりして、組手のみならず空手が嫌いになる可能性が高い。
すべての空手愛好者が組手に上達するためには、先ず、組手に上達するための原理原則を示し、その原則を物差しにしながら組手稽古を行なう事が必要だ。
【組手に勝つための9原則】
〈戦う前(準備・稽古)〉
1.基礎体力をつける。
2.常に原理原則を考える。
3.得意技を身につける。
4.絶えず新しい技を身につける。
〈戦う前と戦いの最中の両方〉
5.相手と自分の情況、状態を把握する。
6.負けないと決める。
〈戦いの最中(組手)〉
7.相手の戦略と戦術を知る。
8.相手攻撃を弱体化又は無力化する。
9.自分の攻撃の効力を最大化する。
9原則の1番目から4番目は、組手に上達するための原則であると同時に戦いに勝利するための準備の原則と言っても良い。
先ず1番目の「基礎体力をつける」とは、説明の必要はないだろう。組手に上達したいなら、激しい組手練習を行なうための身体をつくることが必要である。なぜなら、相手と組み合うような格闘技のみならず、フルコンタクトの組手を行なうには、相手攻撃を受け止めるための基礎体力や自分の攻撃によって身体を損傷させないための基礎体力が必要なのだ
2番目の「常に原理原則を考える」とは、基本練習をただ漠然と行なったり、力任せに行なったりせず、身体の使い方を吟味しながら行なうこと。また、基本技の応用の練習である型の練習、型の応用練習である組手練習も同様である。尚、型や組手の練習の場合、組手の戦術や戦略を考えることが重要である。
そのような身体操法や戦術などを検討しながら行なう練習を稽古というのである。
3番目の「得意技を身につける」とは、稽古では、すべての技を修練する。下位者(初心者)が組手練習を行なう場合は、先ず身につけたい技(組手で使いたい技)を決め、その練習に取り組むのが良いだろう。もちろん、始めのうちは右も左も解らないかもしれないので、いろんな技を試してから、自分に合う技を見つけるのも良い。そして、徐々に上達していく中で、自分の得意とする技を持つことが必要である。なぜなら、得意技を軸に組手を行なうことにより、組手法(組手に上達する原則)が理解されてくるからだ。それとは逆に得意技を決めずにただ漠然と組手を行なっても、組手法は理解されないだろう。
4番目の「新しい技を身につける」を説明する。組手上達の過程で、得意技を身につければ、相手とより善く(原則に則り)戦うことができるようになる。
しかし、やがて自分の得意技が効かなくなる状況に陥る。実は、そのような状況を理論的に理解するならば、この段階が組手上達への道の入門である。(ほとんどの人がここまでも達していない)
そして、そのような状況を乗り越え、自分の心・身・技が変化(進化)することが真に上達するということである。そのような上達を果たすためには、組手の実践からより高次の原理原則を掴み、それを体得しなければならない。そのためには、絶えず新しい技を考えることである。新しい技とは、何も奇抜な技を指さない。
同じ技でも、どのような身体操法でどのように使うかを考え工夫することで、その技は新しい技に生まれ変わる。そのような創意工夫が新しい技を身につけることの意義である。以上は、組手を行なう前の稽古の原則である。
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