【フリースタイルカラテとは何か?~対談】
国際武道人育英会 理事長 空手道八段 増田 章
VS国際武道人育英会 審判委員会 審判委員長 荻野 聡
(荻野)フリースタイル空手のルール(TSルール)とはどういうものか、増田師範にお聞きしたいと思います。
(増田)一言で言うならば、TSルールとは新しい武道スポーツのことであり、その骨組みです。
(荻野)なぜ新しい武道スポーツを作りたいと考えられたのですか?
(増田)簡単に言いますと、世界中に空手流派が有りますよね、大会もあります。その大会や空手流派が一つになって競技を行なえば、サッカーのような世界的なスポーツになると考えたからです。
でも、空手には、いろんな流派、スタイルの競技があり、一つになって競技をすることは難しいという現実があります。
それは、それぞれのスタイルには歴史的や意味があったり、様々な主義主張があるからです。つまり、空手をひとつに統一するということは、それらを捨てろということになりかねません。そのようなことは難しいと私は考えたのです。また、多様な考え方は重要です。
それでも、みんながそれぞれの伝統を大事にしながら、共通のルールを持ち、交流することができたとしたら、とても価値のあることだと私は考えました。
この地球上には、60億以上の人間が生きていて、それらがこの地球を共有しています。
そして、この地球の自然環境をまもること、貧困の撲滅や地域的武力紛争の解決等等、また、それらの課題を担う子供達の教育に関する地球規模の協力体制のためには、やはり人間としての相互理解が重要だと思います。
若い頃、私は空手で世界を回り、外国の方々と交流しました。そこで感じたことは、「人間は同じだ」ということです。にもかかわらず、世界が一つにならないのはなぜか。それは、空手が一つにならない理由と同じではないかと私は考えています。
でも、心を一つにする方法があると思ったのです。それが、新しいスポーツ(競技)をみんなで作るということです。そのようなことを10年ぐらいずっと考えていました。
(荻野)それはどのようなスポーツですか?
(増田)様々な空手に共通する格闘技術である「突き」「蹴り」をベースにしながらも、そこに相手を倒す技術、つまりテイクダウンを奪う技術を競技に加えたものです。
非常にシンプルなものです。
(荻野)これまでの空手競技は組技や投げを禁止していましたが、なぜそのような技術を競技に取り入れようと考えたのですか?
(増田)詳しくはフリースタイル空手についての小論文、「新しい武道スポーツをデザインする」を読んで頂きたいのですが、簡単に述べれば、その理由は3つあります。
1つ目は、「判定材料を増やすこと」です。これまでの突きや蹴りだけの空手競技では、優劣が観客に解りにくい試合が多くなってきました。ですから、判定材料を増やせば、観客にも競技者の技術力を判定できるようになると考えたのです。
2つ目は、「空手競技に戦術的アプローチの幅を持たせ、戦い方に変化をつけるため」です。
最近、空手家は組まれるとすぐに倒され、空手の技が無効になるというイメージが総合格闘技の普及によってでてきました。
そのようなイメージは、格闘技としての空手の欠点を印象づけるものです。ゆえに空手が格闘技として、多様な状況に対応できるということを示したかったのです。
3つ目は、「他のスポーツのような戦術を評価できるようにすること」です。既存の空手は、ルールを限定しすぎたが故に、戦術の幅が無くなり、勝つための要素がスピード、パワー、スタミナ等の体力に偏ってきているように思います。
ゆえに戦術的な部分に関して、見るものの想像力を引き出さなくなってきていると考えたのです。そのような傾向の解決策として、打撃技と組み技を組み合わせることにより戦術的アプローチの幅を拡げることを考えました。
そうすることで、する側のみなら見る側に戦術の重要性を認識させるようになると考えたのです。
(荻野)TSルール(フリースタイル)には、「背後取り」というポイントがありますが、それにはどのような意味がありますか?
(増田)TSルールの判定基準の核心は、「相手の戦闘力を奪う」ということです。
戦闘力が奪われた状態とは、①心身にダメージを受け戦闘力を喪失すること。そして、②身体のバランスを崩すこと。また、③「相手より有利な位置(ポジション)を奪うこと」だと考えました。
背後取りは、③「相手より有利な位置をうばうこと」なのです。
(荻野)TSルールはポイント制ですね。
(増田)そうです。しかしポイント制と言っても寸止めではなく、打撃を直接相手に当てます。TSルールのポイント制というのは、これまでの「1本」や「技有り」を漢字で観客に伝えるのではなく、「10点」「5点」と数字でも伝えることなんです。
そして、選手が反則行為を行なったとき、「注意」「警告」を与え、相手選手に「1点」「3点」を与えるということです。そのようなルールにすることにより、より、選手や観客が試合を客観的に理解し易くなると考えたのです。
(荻野)TSルールはオリンピック競技を目指すそうですが・・・。
(増田)はい。オリンピック競技になることを前提にこのルールを考えました。
(荻野)もう少し詳しく教えてください。
(増田)オリンッピック競技になるには、観客に解り易くしなければならないということを第1に考えました。だから、より世界中に理解し易い「数字」を使うのです。
また、格闘技の本質である「相手の戦闘力を奪うこと」を究極のゴールとして、技術を再認識し、その評価方法を決定しました。
(荻野)他の空手もオリンピック競技を目指しているようですが・・・。
(増田)それは良いことですが、私は難しいと思います。なぜなら、「観客に解り易く」という課題が解決されていないからです。
勿論、既存の空手競技がオリンピック競技になるのなら、「おめでとう」と素直にいいたいと思います。
もし、そうなったとしたら、私は新しい格闘競技としてTSルールを「フリースタイルカラテ拓真道」として広めたいと思います。
(荻野)つまり、TSルール、フリースタイルカラテは新しい「格闘技スポーツ(武道スポーツ)」であるというのは、そのようなことが視野にあるのですね。
(増田)そうです。補足を加えれば、水泳競技には「平泳ぎ」「自由形」「背泳ぎ」「バタフライ」など多様なスタイルの競技があるように、カラテも多様な流派を「寸止め」と「フルコン」などの数種類に集約しながら、ひとつの連盟を作るというのも良いと思います。
(荻野)TSルールも「クラシックスタイル」と「フリースタイル」の2種がありますものね。競技ルールが一つでなくても良いですよね。
(増田)ただし、現在の寸止めルールと既存のフルコンタクト空手が一つになるのは難しいと思います。なぜなら、競技システムが違いすぎるからです。
でもTSルールだったら、寸止め方式を採用する人達とも、基盤(ポイント制という基本ルール)が同じなので、可能だと思います。補足を加えますと、既存のフルコンタクトは、試合の最後に行なう、審判の旗判定を基本としています。
一方のTSルールは、寸止めと同じく、「数字」を使ったポイント判定です。私は、競技の共通基盤(ルール)を、数字を使ったポイントにしていけば良いと考えています。なぜなら、勝負判定の基本ルール(大枠)をポイント(数字)による判定とすれば、空手競技の違いは、寸止めとするか直接打撃とするかに大きく分類されます。
そうなれば、判定対象となる技術の大きな違いは、フルコンは突きによる頭部打撃無し、寸止めは突きによる頭部打撃ありとなっていきます。それは、競技の差別化と役割分担になっていきます。私の言っている意味が解りますか?
(荻野)私には解りますが、未分化の空手ではなく、現在の細分化された空手を学ぶ愛好者には難しいかもしれませんね。
(増田)そうかもしれません。私がTSルールの普及を目的としたフリースタイルプロジェクトもスタートしてから早くも5年程の歳月が経とうとしています。
現在、TSルールは完成しつつあります。そして理論的には完成しているのに、普及が遅々として進まないのは、実際に競技をする側のカラテ家が新しい技術を取り入れることに躊躇しているという現状があるからです。
(荻野)でも、先日のIBMAセミナーに参加した人達は、見る見るうちに上達していきましたよね。
(増田)ようするに新しいルールでやるかやらないか、つまり「行動するかしないか」だけなんです。課題は。やれば、みんなできるんです。でも、やりたくなるように伝えられない私の責任ですね。
(荻野)あきらめないでください。私は、TSルールは面白いと思いますよ。そして、このプロジェクトは、日本人のみならず世界中の人達の意識変革になると思います。増田師範も指導者として我慢してください。私も協力しますから、もう少し頑張ってみましょう。
「フリースタイル空手によって世界中の空手愛好者のみならず、より多くの観客、人達を空手のファンにしていく。
そのような社会的承認を空手が得ることで、スポーツ(空手)を愛好する世界中の子供達が自分の将来に希望を持てるようになる」。そんな夢を増田師範は持っているんでしょう。頑張って下さい。
(増田)荻野審判長に勇気づけられました。頑張ります。