①で、4つの体系をご提示し、疑問符で終わってからしばらく経ってしまいました。

今回はまず、前回の問いについて、解を出すところからスタートしたいと思います。


問 以下の4つの違いについて述べよ


1.教育体系

2.研修体系

3.教育研修体系

4.育成体系



1.教育体系とは

教育体系とは、「教育の体系」のこと、つまりは「職場におけるOJT」「暗黙知の蓄積」「業務フロー作成などの標準化」といった、現場指導や組織的学習を効果・効率的に実施する仕組みのことです。


例えば、IT企業では新入社員も常駐したりするので、一対一のOJTリーダーでは中々面倒を見切れない。そこで、職場長/OJTリーダー/サブリーダー/メンターなど複数の人間が役割分担をし、新入社員に対して、OJTを実施している場合があります。

この場合はまず、誰が,何を,いつ,どこで,どれくらい,どうやって,OJTを行うのか?役割分担、育成期間やそれまでに経験させる内容など、細かく部分まで「ガイドライン」を設計します。そのうえで、各職場への説明または研修を実施し、ガイドラインを現場に適用できるようにします。


このように、集合研修ではなく、各職場や組織内で日常的に行われる「教育」をデザインすることを「教育体系をつくる」と言います。


2.研修体系とは

研修体系は文字通り、「研修の体系」のこと、つまり「企業内集合研修」を実施するための全ての仕組みのことを指します。「参加者に対する事前の意識付けの方法」「実施期間やコスト(機会費用も算出する)の計算」「実施内容の設計」「研修効果測定の方法」などなど・・・


日本には、リ・カレントのような研修会社が数多とあります。(独立個人講師を含めれば万単位でしょう)

企業によっては、複数の研修会社を呼んでコンペをしたり、毎年のように研修会社や講師を変えたりしている会社があります。もしくはやったり、やらなかったり、やたらと研修内容を見直したりする会社もあります


ハッキリ申し上げて、僕はそのような人材開発担当者は「失格」だと思うのです。Off-JTに対してなんら「想い」を持っていません。


●「自分が考えたわけじゃないけど、研修体系で決まっているからやっている。」

●「細かい内容まで考えるのが面倒、外部に任せておけばよい」

●「どこもあまり変わらないのだから、少しでも安いところが良い」

●「そもそも集合研修って効果あるの?」


などと考えている担当者、あるいは経営者はかなり多くいます。

恐れずに申し上げますしあなたが人材開発担当者として、もし、上記の4つの中で、一つでも思っているのならば、すぐに集合研修を止めるべきでしょう。おっしゃる通り、(あなたが担当したのでは)効果がありません。というか受講者に対して失礼です。


集合研修とは一体何なのか?は、企業内教育研修論の本論で論じさせていただきますが、集合研修の効果は以下の式によって表現できます。


研修効果(受講者本人,クラス全体)=(『仕掛け側(人開担当,研修会社)の仕掛け方』×『参加者の意識・意欲』+『研修講師』×『研修コンテンツ』×『会場の空気・雰囲気』)×『研修テーマと実際の課題の適合度』


研修体系内にある「何を研修するか」については、上記の方程式を「研修への期待効果」と「コスト&リスク」を天秤にかけながら一つずつデザインしていくことが求められます。かなりの手間です。

それゆえ、わが社のような外部研修会社が存在し、一緒になって上記の方程式をデザインしているわけです。


3.教育研修体系

さて、ここまでくればお気づきのように、本気で社員の育成を考えると、教育体系だけでも研修体系だけでも片手落ちです。OJTとOff-JTを有機的に結合させ相互補完作用を生み出す仕組みが必要となります。

解りやすく言えば、現場のOJTで褒められたり叱られたりして気付いたことをOff-JTで腹落ちさせ、Off-JTで学んだことをOJTで強化・浸透・定着させる、学習スパイラルを促進する仕組みを、教育研修体系と呼びます。


この体系は、単純に教育体系と研修体系をくっつけたものではありません。相互補完作用を生み出すための仕掛けが必要となります。

例えば、OJTとOff-JTの役割分担の明確化、OJTリーダーのOff-JTに対する理解、育成計画書と研修体系との連動などなど・・・かなり多くの仕掛けを考える必要があります。


先ほど、研修会社をコロコロ変えるのは良くない、という旨をお伝えしたのは、特に階層別研修で頻繁に内容を変えると、この教育研修体系のもつ「OJTとOff-JTの相互補完作用」が消えてしまうからです。OJTリーダーが、メンバーがどんな研修を受けているのかを知らないで、Off-JTの内容を定着させることなど出来ません。

外部研修会社を変える際は、教育研修体系自体を見直すくらいの、相当な覚悟を持つ必要があります。


4.育成体系

育成体系とは文字通り、「育てて成らせる体系」です。つまり採用からはじまって退職に至るまでの、その会社における社員の人生全般を育成面からサポートする体系を指します。


ちょっと考えただけでも、大掛かりな仕掛けが必要なことはお解りだと思います。採用、異動・配属、昇進・昇格、昇降給、出向・転籍などなど、人事面全般を設計する必要があります。また、配属先の上司や部下、新しい仕事の特性や期待役割なども考慮しなければなりません。そのために必要になるのが・・・


【人材要件定義】 というものです。


要件定義という言葉がお嫌いな人もいるので、簡単にいえば「求められる人物像を明確にしたもの」ということになるでしょうか。

もちろん、人間をすべて定量化することは不可能なのですが、求められる知識・スキル・能力・行動や望ましい人格・周囲からの認知など、ある程度までは定義することができます。

この要件定義があってはじめて、戦略的な人材育成が可能となるのです。つまり、5W3Hをすべて埋めるkとが出来るのです。


前職で、育成体系構築をご検討されているお客さまがいました。念押しして確認をし、育成体系であるとのことでしたので、主体はお客さまになって頂き、コンサルタントは週一回で訪問するアドバイザリー契約としてコンサルテーションを実施しました。お客様はかなり大変でしたが、その会社としてはじめて、「根拠のある研修」ができた、と喜んで下さいました。


このように、人材開発分野では体系だけでも4種あり、それらはみな、各社各様になるべきものです。同業界のA社の体系を参考に・・・という発想が、いかに無意味であるかがご理解いただけたと思います。


さて、次回からはまた、企業内教育研修論の本論に戻りたいと思います。


最近、営業でお客様を回っていると、しばしば聞くことばがあります。


「今年になって、教育体系を見直していまして・・・」

「若手の育成体系を考えています・・・」

「研修体系全般を見直して、研修内容も変えようかと・・・」


リーマンショック以降、お客様はそれまでの教育研修のあり方を見直しているようです。それにともなって、OJTやOff-JTについても、課題意識をお持ちになっているようです。


さて、この手の会話は、この業界に10年も在籍をすれば100回くらいは聞く会話なのです。しかし、以下の質問にきちんと回答出来た人材開発担当者はあまりいませんでした。


1.教育体系

2.研修体系

3.教育研修体系

4.育成体系


この4つの違いはなんでしょうか? まずはご自身のお考えをまとめてみてください。この違いを把握していない限り、「体系」は永遠に出来ません。


では・・・

前回は企業内教育の中でも、「A.仕事に直接/間接的に関わりのある「知識」「技能」「スキル」「行動」の伝授」について考察をしました。仕事を進めていく上でも、Aは必要だ、という結論であったと思います。


今回は、「B.仕事に対する姿勢、組織観、職場内の立ち振る舞いなどの啓発」について考えてみたいと思います。


【仕事に対する姿勢、組織観】

僕のビジネスマン人生は営業からスタートしました。最初の会社は日本的体育会系文化を持っていて、朝から夜まで働いていた記憶があります。営業所長や先輩社員からは、「営業ってのはな~」という話をよく聞かされたものです。曰く・・・


「営業は数字を作るのが仕事だ!だから数字に対する意識はしっかり持たなくちゃいけない!いまの数字状況なんて、わざわざ係数表を見なくたってわかるべきなんだ!」

「営業はとにかく数だよ、数・・・ 訪問件数が勝負を決めるんだ。とにかく顧客接点を多くしろ!」

「営業は目標達成をしてナンボ・・・ 休みたかったらまずは目標を達成しろ!!」


うーん、思い出すだけでも疲れます。その会社は今月数字の目標達成のために、「数字の先上げ」という行為までしていました。架空計上ではないのですが、来月の数字を今月に持ってくる、という行為をしていたのです。驚いたことに、転職した大手メーカーでも似たようなことをしていたそうです。そう考えると、先輩の言っていた「営業ってのはな~」は結構、的を射ていたのかもしれません。


さて、上記のような「指導」は、さまざまな職場で行われているのではないでしょうか?「人事ってのは・・・」「経理ってのは・・・」「コンサルってのは・・・」 主語はたくさん、想像が出来ます。


このような「●●ってのは・・・」というセリフを「一家言を吐く」といいます。日常的なOJTや仕事での体験を通じて形成されてきた「仕事への哲学」と言えるでしょう。多くの場合、この「一家言」が企業のDNAを象徴し、組織文化を形成していきます。「リク●ート的」とかいわれる人がいますが、このDNAがしっかりと継承されているからでしょう。


「仕事観」が異なる人と一緒に仕事をすると、さまざまな場面で戸惑いやズレが発生します。最近、ダイバーシティが注目を浴びているのも、雇用形態の多様化で、この「仕事観」の違いにどう対応するかが問題になっているからではないでしょうか。


組織に入ってきた新人に、自組織の文化や大切にしている働き方、考え方を伝えるのは大変重要だと思います。結婚する男女が互いに金銭感覚や生活習慣を確認・すり合わせるようなものです。OJTの大切な機能の一つではないでしょうか。


ただし問題があるとすれば、その「一家言」がすでに時代とマッチングしていない場合です。たとえば、90年代の自動車ディーラーでよく見かけた光景として、営業マネジャーが「営業訪問行ってこーいっ!」と部下の尻を叩いて、各家々に訪問をさせますが、全く売れない・・・ 

当たり前です。突然、家にやってきて「車いかがっスか?」と言われても、不愉快になるだけで買いません。当時の自動車営業は、訪問によるプッシュ営業から、展示場への来客舎を対応するプル営業へと変わる転換期でした。昔ながらの営業方法で一家言を持ったマネジャーは、顧客のニーズとのギャップに気付かなかったのです。


一家言は単なる「思い込み」に他ならないのですが、成功体験に裏付けされ、間違っていると証明することが難しいので、簡単には変わりません。倒産した企業の再生を行う際に、マネジャーの大量リストラを行う原因としては、こうした「旧態依然の思い込み」が組織の変革を阻むからでしょう。


人材開発を監督する人事部としては、組織の戦略を見据えながら、各職場で行われている「一家言の伝承」に留意する必要があります。


【職場内の立ち振る舞い】

ホワイトカラーの仕事は、関係の中で行われます。そのため、職場内の人間関係や、上司・同僚・後輩・他部門からの認知は、対顧客と同じくらいに気をつけなくてはなりません。


学卒の新入社員は、企業のような組織で働いた経験がありません。そのため、職場の中で「エッ」という言動を取ってしまうことがあります。そこで、上長や先輩社員は、OJTの一環として「職場内の立ち振る舞い」を指導します。具体的には・・・


①組織内や職場の中で気をつけるべき行動や発言、期待されている役割

②OnTime宴席(職場での飲み会など)での動き方


つまり、上司や同僚、後輩など、一緒に仕事を進めていく関係中での言動についての教育です。この教育は、特にハイ・プレッシャー型社会である日本企業において必要でしょう。日本人は本音と建前を使い分け、場の空気を気にしながら、言葉の裏にある意図を表情や仕草で読み解き、阿吽の呼吸で合意形成をする、という、欧米人から見たら「エイリアン」と同じくらいの異世界に住んでいます。


「お前さ、他の人のコピーも「これ誰のですか?」って聞けよ」

「タバコ部屋での会話は気をつけろよ~」

「みんな見てるんだよ~」


こんな指導をしたことのある方、多いのではないでしょうか?これらはすべて、職場内での立ち振る舞いをOJTするときのトークです。人間関係の中で仕事を進めていくホワイトカラーにとっては、職場内の「認知」こそが最も重要であり、それらはすべて「何気ない言動」によって形成されていきます。「人柄」が、日本企業の採用基準で最大のウェイトを占めている理由が、「一緒に仕事を出来る人(社会性のある人、受け入れられる範囲の個性を持った人etc)」を採用するためです。


グローバル化云々はともかく、日本企業の大多数が、日本国内で日本人の中でビジネスをしている以上、この「職場内の立ち振る舞い」は教育の必要があります。特に昨今の新人は「個人主義」「個性第一」「自己主張」という、日本企業のタブーを刷り込まれた世代ですので、一層の教育が必要でしょう。


ちょっと長くなりましたので、続きは次回にしたいと思います。

大切なテーマですので、次回もこの「B.仕事に対する姿勢、組織観、職場内の立ち振る舞いなどの啓発」を考えたいと思います。


つづく