前回は企業内教育の中でも、「A.仕事に直接/間接的に関わりのある「知識」「技能」「スキル」「行動」の伝授」について考察をしました。仕事を進めていく上でも、Aは必要だ、という結論であったと思います。


今回は、「B.仕事に対する姿勢、組織観、職場内の立ち振る舞いなどの啓発」について考えてみたいと思います。


【仕事に対する姿勢、組織観】

僕のビジネスマン人生は営業からスタートしました。最初の会社は日本的体育会系文化を持っていて、朝から夜まで働いていた記憶があります。営業所長や先輩社員からは、「営業ってのはな~」という話をよく聞かされたものです。曰く・・・


「営業は数字を作るのが仕事だ!だから数字に対する意識はしっかり持たなくちゃいけない!いまの数字状況なんて、わざわざ係数表を見なくたってわかるべきなんだ!」

「営業はとにかく数だよ、数・・・ 訪問件数が勝負を決めるんだ。とにかく顧客接点を多くしろ!」

「営業は目標達成をしてナンボ・・・ 休みたかったらまずは目標を達成しろ!!」


うーん、思い出すだけでも疲れます。その会社は今月数字の目標達成のために、「数字の先上げ」という行為までしていました。架空計上ではないのですが、来月の数字を今月に持ってくる、という行為をしていたのです。驚いたことに、転職した大手メーカーでも似たようなことをしていたそうです。そう考えると、先輩の言っていた「営業ってのはな~」は結構、的を射ていたのかもしれません。


さて、上記のような「指導」は、さまざまな職場で行われているのではないでしょうか?「人事ってのは・・・」「経理ってのは・・・」「コンサルってのは・・・」 主語はたくさん、想像が出来ます。


このような「●●ってのは・・・」というセリフを「一家言を吐く」といいます。日常的なOJTや仕事での体験を通じて形成されてきた「仕事への哲学」と言えるでしょう。多くの場合、この「一家言」が企業のDNAを象徴し、組織文化を形成していきます。「リク●ート的」とかいわれる人がいますが、このDNAがしっかりと継承されているからでしょう。


「仕事観」が異なる人と一緒に仕事をすると、さまざまな場面で戸惑いやズレが発生します。最近、ダイバーシティが注目を浴びているのも、雇用形態の多様化で、この「仕事観」の違いにどう対応するかが問題になっているからではないでしょうか。


組織に入ってきた新人に、自組織の文化や大切にしている働き方、考え方を伝えるのは大変重要だと思います。結婚する男女が互いに金銭感覚や生活習慣を確認・すり合わせるようなものです。OJTの大切な機能の一つではないでしょうか。


ただし問題があるとすれば、その「一家言」がすでに時代とマッチングしていない場合です。たとえば、90年代の自動車ディーラーでよく見かけた光景として、営業マネジャーが「営業訪問行ってこーいっ!」と部下の尻を叩いて、各家々に訪問をさせますが、全く売れない・・・ 

当たり前です。突然、家にやってきて「車いかがっスか?」と言われても、不愉快になるだけで買いません。当時の自動車営業は、訪問によるプッシュ営業から、展示場への来客舎を対応するプル営業へと変わる転換期でした。昔ながらの営業方法で一家言を持ったマネジャーは、顧客のニーズとのギャップに気付かなかったのです。


一家言は単なる「思い込み」に他ならないのですが、成功体験に裏付けされ、間違っていると証明することが難しいので、簡単には変わりません。倒産した企業の再生を行う際に、マネジャーの大量リストラを行う原因としては、こうした「旧態依然の思い込み」が組織の変革を阻むからでしょう。


人材開発を監督する人事部としては、組織の戦略を見据えながら、各職場で行われている「一家言の伝承」に留意する必要があります。


【職場内の立ち振る舞い】

ホワイトカラーの仕事は、関係の中で行われます。そのため、職場内の人間関係や、上司・同僚・後輩・他部門からの認知は、対顧客と同じくらいに気をつけなくてはなりません。


学卒の新入社員は、企業のような組織で働いた経験がありません。そのため、職場の中で「エッ」という言動を取ってしまうことがあります。そこで、上長や先輩社員は、OJTの一環として「職場内の立ち振る舞い」を指導します。具体的には・・・


①組織内や職場の中で気をつけるべき行動や発言、期待されている役割

②OnTime宴席(職場での飲み会など)での動き方


つまり、上司や同僚、後輩など、一緒に仕事を進めていく関係中での言動についての教育です。この教育は、特にハイ・プレッシャー型社会である日本企業において必要でしょう。日本人は本音と建前を使い分け、場の空気を気にしながら、言葉の裏にある意図を表情や仕草で読み解き、阿吽の呼吸で合意形成をする、という、欧米人から見たら「エイリアン」と同じくらいの異世界に住んでいます。


「お前さ、他の人のコピーも「これ誰のですか?」って聞けよ」

「タバコ部屋での会話は気をつけろよ~」

「みんな見てるんだよ~」


こんな指導をしたことのある方、多いのではないでしょうか?これらはすべて、職場内での立ち振る舞いをOJTするときのトークです。人間関係の中で仕事を進めていくホワイトカラーにとっては、職場内の「認知」こそが最も重要であり、それらはすべて「何気ない言動」によって形成されていきます。「人柄」が、日本企業の採用基準で最大のウェイトを占めている理由が、「一緒に仕事を出来る人(社会性のある人、受け入れられる範囲の個性を持った人etc)」を採用するためです。


グローバル化云々はともかく、日本企業の大多数が、日本国内で日本人の中でビジネスをしている以上、この「職場内の立ち振る舞い」は教育の必要があります。特に昨今の新人は「個人主義」「個性第一」「自己主張」という、日本企業のタブーを刷り込まれた世代ですので、一層の教育が必要でしょう。


ちょっと長くなりましたので、続きは次回にしたいと思います。

大切なテーマですので、次回もこの「B.仕事に対する姿勢、組織観、職場内の立ち振る舞いなどの啓発」を考えたいと思います。


つづく