なぜ、しずかちゃんの弾くバイオリンはギーギーという音がするのか?~松脂と摩擦 | 音楽 楽器 作曲の研究してます

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作曲・編曲しています。
チェロを弾きます。

ドラえもんに登場するしずかちゃんの趣味はバイオリン。

周知のこと(?!)かと思いますが、本人は弾くのが好きなんだけど、周りへの騒音はジャイアンレベル!という設定ですね。

 

このブログでも5年ほど前にも書きましたが、弓の圧力が強すぎるというのが原因。

サーボモーターを使ったボーイングマシンを開発して(動画)、バイオリンにかかる荷重を測定するセンサーをつかって計測したところ、下の図のように弓圧が高すぎてギギギギときしんだ音がすることが分かりました。

 

 

オリジナルのボーイングマシン 地元の企業さんに作ってもらいました!

肩あてのパーツを取り付けてその上にバイオリンを固定。六軸センサーがついていて荷重やモーメントをリアルタイムで計測できます。

 

この機械をつかって、ボーイングマシンを使って弓をダウンボウで動かしてバイオリンにかかる荷重を測定した結果です。

 

図1 ダウンボウで徐々に圧力を減らしたときのバイオリンにかかる荷重

左半分のギザギザしている箇所はギギギギというノイズの音になり、右半分は通常のキレイなバイオリンの音になった

 

図1では、左から右へ時間と共に徐々に圧力を減らしています。

Fy=弦に直角に横方向で、Fz=弦を押える力です。

Fzは楽器の上方が正なので値はマイナス値になり、グラフが下に行くほど抑える力が大きいことを意味しています。

この実験の場合、グラフの左は圧力が強いために、ギギギギと1秒間に4回のきしみ音が鳴っていることを示しています。

弓の毛には松脂がついていますので、それにより摩擦抵抗となって弦を引っかけます。

この弓毛が摩擦により弦を引っ張っている状態では静止摩擦が働いています。

弦は、静止摩擦によって引っ張られると、ある力までは耐えられますが限界を超えると、張力によりポンと解放されて元の位置に戻ろうとします。

この引っ張られて解放される現象は、きれいに音が鳴る時も起きているいわゆる「スティック・スリップ現象」です。これによる弦の振動はヘルムホルツによる理論で知られています。

ところが、圧力が強すぎるとその解放される時は、弦が押さえつけられているために弦の固有振動(ラの音を弾いているなら440Hzの振動)が妨げられ、ノイズ成分ばかりが聞こえてしまいます。

 

一方、右側は圧力が弱まってクリアなきれいな音になっています。弦の固有振動とその倍音振動が発生してバイオリンらしい音色が聞こえてきます。よって、バイオリンを弾いていて音が汚い場合は、力んでしまって弓圧がオーバーしているという現象です。だから、しずかちゃんはもっと右手の力を抜いて軽くひけばいい音になるはずです(ちゃんとレッスンに行って先生に教わってるのかなぁ)。

 

さて、上述のバイオリンの音源となるスティック・スリップ現象ですが、松脂を弓毛に塗ることによって発生する静止摩擦がポイントとなります。松脂を塗っていない弓毛は、すべすべしていてほとんど引っかからないため音がでません。

 

図2は弓毛の表面の電子顕微鏡写真です(㈱文京楽器提供)。左はモンゴル産の並質で、右はカナダ産の上質のものです。どちらもさわればすべすべなのですが、500倍に拡大すると表面のキューティクルの細かさが違うのが分かるかと思います。ただ、キューティクルが細かければ最良かというと、そうとも言えず、バイオリンならよいでしょうが、楽器が大きく弦の太いチェロやコントラバスであればむしろ荒いほうが良いのかもしれません。

 

図2 弓毛の電子顕微鏡写真 左:モンゴル製の並質 右:カナダ産の上質

 

次に、松脂の粒子の電子顕微鏡写真を示します(小職が大学にて撮影)。

バイオリン用のは粒が小さく、弾き心地もさらさらとしています。一方、チェロ用になるとかなり大きい粒になっていることが分かります。この粒の大きさはもちろん素材の配分や熱処理によって変わり、含水量によっても違ってくるかと思います。この粒は弾いているうちに、弓と弦がこすれることにより溶けて広がっていきます。

 

図3 松脂を塗った状態の毛 左からバイオリン用、チェロ用、コントラバス用

 

いくつか塊や断片といったばらつきはあるものの、おおよそ粒子が細かくバイオリン用ででは大きさが2μm8μm、摩擦力のあるチェロ用では4μm12μm、さらにコントラバス用では10μm40μmでした。

 

最後に、こういった松脂の物理的特性と奏者の感覚について。

図4のようにまとめられるように(アルシェ提供)、横軸は粘性で、縦軸は粉性を示しています。粘性は弓の引っ掛かりで、音量に関係し、粉性は粒子の細かさで音色と関連させています。この評価にあたっては、材料の配合や熱の加え方を変えて粘性25×粉性25に段階分けをして、総当たりで奏者に好みのアンケートをとったそうです(大変な苦労だったのかと察します)。この図より,バイオリン奏者の好みは粘性が小さく粉性の小さいほうが好みにある傾向があり、チェロやコントラバスについてはその逆の好みの結果が現れ、そのように粘性と粉性のバランスのよい配合で製品ラインナップをそろえているとのことでした。
 

 図4 松脂の引っ掛かりと音色

 

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