最近、どうしても気になるのは「秘密」ということばを使って興味を引くこと。

あまり好きじゃないですね・・・テレビとか雑誌・本で目につきますが。

秘密というより、科学で解明できていないだけで、だれかが内緒にしていたり遺跡やお宝のような隠されたものではないですし。

そう、まだ「不思議」の方が良いかと思っています。

 

さて、本題のヴァイオリンの音色の違いについてですが。

 

音の主要要素として、ピッチ、音量、音色が挙げられます。(長さを加えることもある)

 

ピッチと音量のふたつについては物理的に明確です。
ピッチは周期的な音圧変化の周波数ですし、音量はその音圧変化の大きさです。

 

ところが、音色はそう単純ではありません。

 

音色を表現するのに「豊かな」「やわらかい」とかいう表現がありますよね。
でも、「豊かな音」の定義や数量がないのです。
あくまでも聞いた人が勝手に「豊かな」と思い込んでいて、音からなんらかの想像をしているにすぎません。

 

音色を語るのは難しいのです。

ワインや水の芳醇さや、ぬいぐるみの柔らかさを測定できればよいのですが…

 

ひとつ、この音色を解明する手法がありまして、
多くの音響学者は「スペクトル解析」というものを使っています。
音は複数のsin波の合成で表せるのですが、録音した音をフーリエ解析すると
ギザギザの音波が分解されて、どういう周波数のsin波がどれだけのパワーでミックスされているかが分かります。
 #スペクトル解析の詳細は過去にも紹介し、別のサイトでも詳しく載ってますのでここでは先を急ぎます。

 #Audacityというフリーソフトで簡単に音波のスペクトルは解析できます。

 Audcity, sound wave of Stradivari

 Spectrum

 

ただ、このスペクトル解析では音色の区別は分かりにくいです。
これをもう一つ工夫を凝らして、スペクトルのおおまかな形でぼんやり見ます。
ケプストラム法というスペクトルの概形を求める手法がありまして、
それをスペクトル包絡と呼びます。

 

スペクトル包絡の局所的にでてくる山のピークをフォルマントと呼びます。

上の図の青い線はスペクトルでその頂点のピークをなぞる点線が包絡線です。


フォルマントは周波数の低い方から順に第1フォルマント、第2フォルマント・・・と数えます。
第1フォルマントと第2フォルマントが現れる周波数の差を調べると音色の違いが判定できます。

#この技術は、実は音声認識で母音の判定に使われているのです。一般的に日本人の発音する「あ」と「い」ではこの第1-第2フォルマントの間隔が違うのです。

 

このフォルマント間の距離をヴァイオリンの楽器の音色の区別に使えるか?
というのが、今回、筆者の書いた論文の中身です(^^)/ 音声認識技術からの応用ですね。

 

結論から申し上げますと、被験者10人に試したところ、ヴァイオリンの音色の区別ができました。
楽器はオールド・イタリアンからモダンまでの30本以上のヴァイオリンを計測しました。

#論文はこちら(Possibility of distinction of violin timbre by spectral envelope, Applied Acoustics, Elsevier, 2019)

 

図はストラディバリを含む12本のE線開放弦のフォルマント周波数の分布です。

(各製作者ともに1本or2本なのでこれが各製作者のスペクトルを代表であったり平均であったりを意味するわけではありません)


フォルマント周波数のパターンや距離が近い(ヴァイオリンでは第4フォルマントまで使用)と、
被験者は音色が似ている(区別できない)と感じ、フォルマント周波数のパターンや距離が違うと別の音色と感じることがわかりました。

 

上の図(開放弦Aのフォルマント周波数の比較)でいうと、StradivariとRoccaは音色が似ていて、Fagnolaは似ていないということです。

 

ただ、違うという識別に役立つとはいえ、まだ「豊か」「やわらかい」といった、私たちが使う形容詞との関連はわかっていません。
応用例としては、あるストラディバリのフォルマント周波数がわかっていて、
別の楽器(新作ヴァイオリンとしましょう)がストラディバリの音色に似ているかどうかの
判定には使えることを意味していて、味方を変えればそのストラディバリのフォルマント周波数に
似せることでストラディバリのような音色を再現できることを意味する研究なのです。

 

#ちなみに、このフォルマント周波数を測定するには簡単なツールがあります。
praatというフリーソフトが便利です。ご興味あればお試しください。