プレイヤーが気になる、遠鳴りする音。

音響工学で考察しています。 あくまでの仮説、実験してみないと確証ないので・・・

前回は音量について書きました。
次に、ピッチと音色の要素についての考察です。

 

楽器の音は、さまざまな周波数の音が重なった複合音です。
#ちなみに、音叉や聴力検査、パソコンなどから鳴るピーというビープ音、などは

 一つの周波数のサイン波からなる音で純音といいます。

 

音の特徴を調べる方法に、周波数解析(スペクトル解析)という方法があります。
どのような周波数で合成されているかを調べるために、
FFTアナライザー(FFT:高速フーリエ変換)という装置があります。
でも、そのようなたいそうな機械でなくても、最近はAudacityといったフリーソフトでも調べることができます。

下の図はヴァイオリン(Stradivari 1699)の解析例です。(E線,F#,748Hz)

ギザギザの音波をスペクトル解析すると、このようなパワースペクトルというグラフが書けます。

これは、ある時間領域における、何Hzの要素がどれだけのパワーが含まれているか、
を示していて、横軸が周波数(Hz)で縦軸がその周波数におけるパワー(dB)となっています。

 

左から周波数が大きくなっていますが、最初のピークは演奏している音(基音、F0)です。
以降、ほぼ均等に基音の倍数の周波数にピークがみられ、これらを(整数次)倍音と言っています。
その倍音のピーク以外の周波数は、非整数次倍音であったりノイズだったりします。
そして、このピークを何となくたどっていくと大きな凹凸カーブがみられこれをスペクトル包絡といって
スペクトルの概形を表し、これも音色の特徴を物語る要素になります。
また、このスペクトル包絡のピークをフォルマントと呼んでいます。

 

以上、ここまでスペクトル解析の概要をざっと説明しましたが、
楽器の音は、弾いている・吹いている音のピッチ以外にも、その倍音が鳴り、

他の周波数もいろいろ混ざった複合音だということが分かります。

この周波数の混ざり具合で音色が変わるのですが、

高音域の要素が多いと金属的な感じになったり、

整数次倍音と非整数次倍音の違い(Q値、S/N比)が小さいくなると

音のピッチが聞こえにくいノイズに違い音になっていったりします。

ただ、音色の表現語とスペクトルの関係は今のところ決定的な法則はわかってなく、

国内外の研究者が分析しているところです。

 

すこし荒い言い方(確証はない)ですが、このピークのパワーとその他の差が大きい傾向にある

金管楽器などは遠くまで音のキャラクタが立ちやすいことが予想されます。

逆に、歌声や弦楽器などのように小さい傾向にある音は、

音の減衰によってこの差分が縮まるときに、雑味の多い不明瞭な音色になることが予想されます。

 

さて、もう一つ、

人の聴覚に関するグラフを見てみましょう。

 

等ラウドネス曲線(説明のため一部を抜き出してます)といって、

おなじパワーの音でもそのピッチによって、大小の聞こえ方が変わることを示しています。
グラフは、縦軸の値(Sound Power Level)が高いほど、大きな音でないと聞こえない、
逆に、値が小さいほどそのピッチが小さい音でも聞き取りやすいということを示しています。
つまり、人の聴覚は低い音よりも高い音に敏感で、特に2000Hzから4000Hzの周波数の音は

小さくても聞こえるということです。

ただし、これは純音による計測で、合成音であったり、スペクトル解析のなかで

でてくるピークもこれに当てはまるかはわかりません。

 

さて、スペクトル解析と聴覚の話をざっとしましたが、

ここで、音の物理と合わせて考えてみます。

 

一般的に音が高いほどパワーの減衰が早いと言われています。
空気による減衰は500Hzと4000Hzでは数デシベルも変わるようです。
また、高い周波数ほど直進性が増し、椅子や壁などの凹凸での回り込みが減り、

柔らかいホールのシートや聴衆の服で吸音されやすくなります。
そうするとスペクトル解析に出てきた高周波成分が、遠くの場所ほど

耳で知覚されにくくなると想定されます。

そうすると、等ラウドネス曲線でみたような聴覚上聞きとりやすい高いピッチが

逆にホールでは伝わりにくい。これは何かの因果といえるのかもしれあせんが、

なんとかしたら音が遠鳴りしてよく聞こえることにつながるのではないでしょうか。

しかし、奏法によっては高周波成分を大きくすることができます。
弦楽器でいえば駒に近い、また弓の速度が速いと高い倍音成分が増えます(筆者の実験より)。

 

ここまでをまとめると、遠鳴りする音には、(前回の記事も含めて)
・人の聴覚が反応しやすい2000Hzから4000Hz付近の倍音のピーク値が大きい
・倍音のピークとその他の差が大きい(Q値やS/N比が大きい)
・高音域の倍音がある程度大きい
あたりではないかと予想されます(仮説!)。

 

音が音源を離れて徐々に距離とともに劣化しても、これらの条件があれば
そのキャラクタなり音色が明瞭に聞こえ良い音と判断されるのかもしれません。


ピアニッシモで演奏してもこの要素があれば、遠くの席でもオーケストラに埋もれない音になるかもしれません。
(最初に書きました通り、実際に検証してみないと・・・ホントかどうか)

 

これの裏付けにもなるかもしれない先行研究があります。
Benadeの室内平均法(room averaging method)によると、ホールの音響計測は
ミクロな(局所・瞬間的な)計測ではなく、平均的・統計的にマクロでみる法則が提唱されています。
それは、音源に対しパワーPは次のように計算されます。

 楽器の近く: P = Sρf×D(θ)/2r
 遠方: P = Sρf×√(πc/13.82)×√(T/V)
 S:音源の強さ、ρ:空気密度、f:周波数、D:指向性、c:音速、T:残響時間、r:距離、V:ホール容積
 
式はなんのこっちゃ?かもしれませんが、この提唱が真だとすると、ポイントは、
楽器の近くでは、距離rが分母にあるので、距離が遠いほどパワーは落ちる。
ところが、ホールの後方にいると、その距離のパラメータrが式から無くなる、
つまり楽器との距離rは関係なく、指向性Dも関係なく、周波数fによってその強度は変わるということを意味しています。
この式によると、どうやら音源の強度の他は音の周波数がポイントのようです。

(他の変数は演奏による変動量ではない)

 

最後に、舞台上の演奏と指向性のことになりますが、
また金管楽器のようにベルがある楽器は、音の飛ぶ方向の指向性もはっきりします。
ヴァイオリンやチェロでは、低い音は楽器からまんべんなく音が放射されますが、

高い音は前方方向が強いなど出方に偏りが出てきます(violin radiation patternで検索してみてください)。
その観点から、ホールの後方に音の飛びを想像しながら楽器を向けると、

より遠くに音が聞こえるようになることが想像できるかと思います。

#ホルン、チューバやフルート以外の管楽器は必然的に正面を向いています。

#先ほどの式とは矛盾する?ホールの反射も関連?要検討。

 

そして、ソリストとオーケストラのような演奏の場合、もしくは管弦楽曲にてソロを弾く・吹く場合、
聴衆がその楽器を聴こうとしているが為の「カクテルパーティ効果」の要因もあるかもしれません。
つまり、注視している対象の音源の音量が小さくても、周りの音が心理的に小さくなる現象です。
ソリストの音が十分に聞こえてくる為には、ソロと伴奏の音量バランス・ソリストの演奏法・聴衆の

心理効果の関係もあるかもしれません。

 

ではでは、机上の空想はこのくらいにして。
実験しなければ。でも、実験の方法もまた難しいなぁ。

ご協力していただける方お待ちしてます。自分の能力ではすべてやるのは無理だしね。