遠鳴りする音 ~ 音の物理と音響工学から(1) | 音楽 楽器 作曲の研究してます

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作曲・編曲しています。
チェロを弾きます。

演奏する人にとって気になる話題!

遠鳴りする楽器、そば鳴りしかしない楽器。

 

経験的にはその違いを感じている人もいらっしゃるかと。

ホールでどの様に楽器が鳴り響いているかはプロ・アマ問わず気になるところ。

 

この現象、どういうことなのか?
私も昔から気になっていてなんか測定したいとは思って、日は過ぎてしまい・・・

一念発起、まずは文献下調べをして考察をしたいと思います。
#あくまでも、まだ文献漁って読んだとこのまとめであって、実験により証明できたわけではないので、一見解です。

 

 Museo del Violino in Cremona.

 

まず、「遠鳴り」という言葉。

辞書をみてみると。

遠くから、また、遠くまで鳴りひびくこと。また、その音。(デジタル大辞泉、小学館)

潮や雷などが遠くから聞こえてくるときに使われる言葉ですね。

一方、「そばなり」。

・・・辞書にはないようです。遠鳴りに対して、演奏する人が作った表現のようです。

 

遠鳴り(そば鳴り)について、ちまたではどう解釈されているかをざっとまとめてみると、
・音がホール後方の遠くまで届いている(飛んでいる)様子。
・近くではさほど大きくは聞こえない(ように思っていたが)、遠くまでよく聞こえる音。
・逆に、そば鳴りは、近くではうるさいくらい大きいのに、遠くではさほど大きく聞こえない音。
・遠鳴りする音を出すには、前に飛ばす、まとめる感じで、といったイメージで表現されている。

など、

確かにこれらの表現は、遠からず、感覚的にはなんとなく自分もそうだな、と思うところです。

 

今回の記事では、この遠鳴りについて音響と物理の点で調べて考察を試みます。

 

最初に、音の三要素は、
・大きさ(ボリューム)
・高さ(ピッチ)
・音色
です。

 

まず、音のボリュームを物理で考えてみます。

 

音の物理からするとステージで小さかった音が、客席で大きくなることは、まず考えにくいです。
楽器から出た直接音は、音の基本性質から必ず距離が遠くなるほど減衰します。
(そうでないと、地球の反対側まで、あなたがしゃべった内緒のひそひそ話が伝わっちゃう!)

 

音波は空気の粗密の変化(圧力変動)が伝搬する現象です。

音が空中を拡散していくとき、楽器から出る音の源=音源を点とみなすと、
距離が2倍になるごとに音のパワーは6dB下がります(6dB下がる=音のパワーででいうと約1/4になる)。
これはかなりの減衰で、ステージ上で2m離れていたところで聞いた音のパワーは、

4mで6dB下がり、8m離れてさらに6dB下がり、、、

例えばホール後方が64m(=2^6m 2の6乗m)離れた位置だと、2mの位置からは、

6×5 = 30dBも小さくなっていることになります。

あとは、空中の分子が振動することで摩擦抵抗となって徐々にそのエネルギーを失い、これが約2dBほど下がります。

たとえ反響板があって音の反射が集まって、たまたま集音マイクのパラボラアンテナのように

音が集まったとしても距離の減衰のほうがずっと大きいでしょう。

さらに、反射に関しては音が100%跳ね返ることがないため、壁にぶつかることでパワーは減衰します。

 

パラボラアンテナ、時々公園で見かける丸い物体。

  音を集めて小さい声を反対側に伝えて遊ぶ遊具

 

ということなので、

「そばで聞いたけど良く聞こえなかったけど、ホールでは大きく鳴り響いた!」
といった、小さい音がホールで大きく聞こえることはないでしょう。

素晴らしい楽器をいくら名人が調整し、いかに演奏者が頑張ったとしても、
距離に対して徐々に大きくなっていくような音を出すのは物理的に不可能ということです。
でも楽器の調整という点は、まず音源として大きな音が出るように、

よく共鳴するようにチューニングしてもらうということは差し当たり必要ですね。

 

次に、音色の観点から。

これは、その(2)へ・・・

ちょっと長くなりますので。

https://ameblo.jp/masaoprince/entry-12404337618.html

 

参考文献:音楽と楽器の音響測定、Hatchinsの例の本などなど

 

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音楽と楽器の研究:

 

 

筆者(横山真男)のHP(楽譜のダウンロードもできる作品リスト

 

https://www.cello-maker.com/